>>参考 「瓜子姫子」「人食い女

 

カチカチ山  日本 新潟県

 むかあしね、じさが朝はよう起きて、山へ仕事に行ったと。

 だいぶ日も昇ってきたし、腹も減ったので、弁当食おうと思うたら、なんかが弁当を食ってしもうて、紙くずばっかりだったと。

「ちきしょう。何が食いやがった」て、じさはそこらを探してみた。したら、木のうろコのの中で、狸が、じさの弁当食い散らかして腹がくちくなったので、ぐうぐう寝てたと。

「こんちきしょう。人の弁当食いやがって」てがんで、じさはくわで狸の頭をはったきつけた。ほしたら、狸は、ころりと死んでしもうたと。じさは、「は。こりゃまあ、ひとつ、狸汁でもして食おう」と思うて、縄でふんじばって、狸を家へ持ってきたと。

「ばさ、ばさ。狸を獲ってきたすけ、そこらへ吊るして、夜んなったら狸汁にしてくれ。こんちきしょうに朝めし、みんな食われてしもうた」

「はい、はい」

 ばさはじさが出かけると、支度を始めたと。「まあ、じさは、難儀してるんだが(苦労しているのだから)」と思うて、いつもより米をちっと白うしてやろうと、腰を曲げて、バタン、バタンと米を搗いた(精白した)と。

 ほしたら、ぶるさがってる狸が口をきいたと。

「ばさ、ばさ。お前、難儀だろう」

「おう。難儀だども我慢してら」

「俺が米を搗いてくろうか」

「いやいや。、逃げるすけ駄目だ」

「おめぇ、俺の足だけ縛って、手だけふぐしてくれりゃあいいんだねか」

「そうか。んじゃ、手ぇふぐしてくれる」

 ほうして、ばさは流しに行って仕事してたと。狸は、足を縛ったまま、トントンと米を搗いたと。

「ばさ、ばさ。白いか黒いか。だいぶ搗かったすけ、見てくんないか」

「どら、どら」て、ばさが出てきて、臼ん中へ手ぇ突っ込んで、屈むと一掴みの米の糠を、ふう、ふうと吹いてみた。ほうしたら狸は、ばさの頭を臼の中へカァンと搗いて、ばさを殺してしもうたてんがね。

 それから狸は、ばさの手拭いを頭へかぶって着物きもんを着て、ばさに化けていたと。ほして、ばさを包丁で切って煮ておいたと。

 じさは山から帰って、

「ばさ、ばさ。狸汁できたか」

「ああ。できたできた」

 じさは喜んで狸汁食い始めた。

「ばさ。おさん(お前さん)も来て食わんか」

「いや、オラいらねぇ」

 そう言って、流しの方で踊ってるてがんだ。

 じじいのばばっ食い

 オラ、今朝の狸だ。

 しっちょこどっこい、しっちょこどっこい

てて、ケツから長ァげえ尻尾を振って、手拭い被って踊ってる。

「なんだ。こら、狸でねか」て、じさが言うたら、狸は

 流しの下に、手もある足もある骨もある。

 しっちょこどっこい、しっちょこどっこい

てて、踊りながら山へ逃げてってしもうたと。

 じさ、たまげて流しの下を見てみたら、ばさの骨が一杯いっぺあった。「はあ、おおごとだ」と、じさは泣いていたと。

 そこへ、山からうさぎがひょこひょこ来て、流しの窓から顔を出した。

「じさ。なに泣いてる」

「いや、山の狸にばさ汁をせらった(食わせられた)」と、じさは一部始終を話して聞かせたと。

「わりぃ狸だすけ、俺が退治してくれら」

 そう言うて、うさぎは山へ入って行ったと。

 

 暫く経ってから<うさぎは狸んところへ遊びに行ったと。

「狸どん、狸どん。へえ、だいぶ寒くなってくるすけ、冬ごもりの焚きもん採りに行ごでねか」

「よし。んじゃ、行ごか」て言うんで、二人して出かけて行ったてや。

 ほして、狸は力があるんだ、むっつり(沢山)薪をたと。うさぎは少して、一緒に坂を下って来たと。

 途中まで来ると、「ふうっ、ふん」て言うて、うさぎが唸り始めた。

「どした、うさぎ」

「いや、重とうてどうしょもね」

「ああ、そうだっきゃ(それなら)、俺の焚きもんの上に、お前の焚きもんを乗せれや」

て言うんだが(言うものだから)、うさぎは焚きもんを、狸の一杯積んだ焚きもんの上に乗してもろうたと。

 そっでもまだ、うさぎが「はあ、ふん」て言うてんだと。

「どした、うさぎ」

「いや、腹が痛え。は、今朝食うたもんが悪かった。腹が痛え」

「ああ、そりゃ気の毒だ。オラの背中へ乗れ」

と、狸が言うが早いか、うさぎは、ぴょーんと背中へ飛び乗ったてんがね。

 ほして、うさぎは背中の焚きもんの上で、そこらの景色眺めて、火打石をカチン、カチンと打ったと。したら、狸は

「おい、うさぎどん。カチン、カチンていうのは何だ」

「いや。この辺はな、かちかち山て言うて、かちかち鳥が鳴くがんだ」

 そう、うさぎは言うたと。そのうちに火が点いて、焚きもんがボウボウと燃えだした。

「うさぎどん、うさぎどん。ぼうぼうて言うのは何だ」

「いや。ぼうぼう鳥が鳴いてるがんだ」

 言うたが早いか、うさぎは、ぱぁん、と跳び退いて逃げて行ったてんがね。

 はあ、背中一面に火がついたんだが、狸は、熱っちゃくて熱っちゃくてどうしょもねぇ。荷物は重たいし、下ろさんねぇし、そのうちに背中を黒々に焼いてしもうた。狸はやっと家まで帰って、「うーん、うん」て寝込んでいたと。

 次の日、

「えー、火傷の薬はいらねか。えー、火傷の薬はいらねか」

て言うて、うさぎが来たと。狸は痛ぇの我慢して、うて出て、

「うさぎや、うさぎ。おめ、俺の背中に火傷をさせやがって、とんでもない奴だ」て怒ったてや。したら、うさぎは

「いや、ありゃ、かちかち山のうさぎで、俺だねぇ(俺じゃねぇ)。オラ、薬売りのうさぎだ」て言うたてんがね。

「そうか。んじゃ、オラ、火傷をして困っているが、薬はないか」

「あるある。火傷にバカ効く薬がある」

「それを塗ってくんないか。オラの背中、赤肌が出てどうしようもねえ」

「よしきた」てがんで、うさぎは、辛え南蛮(トウガラシ)を煮た汁を、でっこい(でっかい)ハケで、ぐるぐる、ぐるぐるうっと、狸の赤肌の背中へ塗ってくれたと。

 はあ、もう、狸はぴりんぴりんと背中が割れそげだ。七転八倒の苦しみで、やっと川へ行って、背中を洗うて、南蛮汁を落としたと。

「さあ今度こそ、うさぎの野郎めっけたら、勝負してくんなきゃなん」てがんで、狸はうさぎを捜し歩いたと。

 ほしたら、うさぎは雑木林で、一所懸命いっしょけんめに何かを作っているんだと。

「うさぎ、うさぎ。おめぇ、火傷の薬なんてとんでもねえ。南蛮の汁つけられて、大目(ひどい目)におうた」て狸が怒ったら、

「いや、ありゃ薬屋のうさぎだ。オラ、この雑木林のうさぎなんだ。知らん」

 そう、うさぎが言うたてんがね。

「そっだけども、おめぇ、何作ってる」

「や。この頃は不景気なんだ、何でも高い。そっでも腹が減るんだ、食わんきゃならん。食えばケツから出てしまう。ほしたら、また腹が減って食わんきゃならん。だすけ、オラ、食わんでもええ機械を作ってるがんだ」

「ほうか。んじゃ、俺にも一つ、作ってくんないか。どうしるがんだ(どうすればいいんだ)

「いや、これをケツの穴へぶっときゃいがんだ(ぶち込んでおきゃいいんだ)

 ほう言って、うさぎはじょうご(栓)をこしらえて、狸のケツの穴へ、風呂の栓をしるように、こん、こん、とぶってくれたと。

 はあ、こんだ(今度は)、狸はうんこが出とうなったども、しる(する)ことができない。腹はだんだん膨れあがって、苦しいてどうしょもねぇんだ、そこら転げてるども、ケツのじょうごは抜けねえ。はあ、でっこい木んとこへ行って、一所懸命でこすって、やっとこすっとこ、じょうごを抜いたてんがね。

 狸は、「今度こそは、うさぎの奴とっ捕まえて、勝負してくんなきゃなん」と思うて、杉やぶへ行ったら、ずいこ、ずいことのこぎり使うて、杉の木を切っているうさぎがいたと。

「うさぎ、うさぎ。おめぇ、なんてこんだ。ケツの穴へじょうごなんかくれやがって、大目におうた」

「いんや。ありゃ、雑木林のうさぎだで。オラぁ、杉山のうさぎだんだ、知らん」

「んじゃ、おめぇ、何してるがんだ」

「オラ、魚獲りに行ごうと思うて、今、舟を作ってる」

「ほうか。俺も魚が食いてえすけ、ひとつ、舟を作ってくんないか」て、狸が頼んだと。

 そっで、うさぎは自分には杉の木で舟を作って、狸にはべとで舟を作ってくれたてんがね。ほして、どっちも出来たので、川ん中へ浮かしたと。うさぎは、

「いいか、たぬきどん。俺が音頭をとるすけ、後へ続け。俺が『杉舟は、すいとすい』と言うて出たら、おめぇは『べと舟は、ばくんとすい』て言うて、その櫂でもって舟べりをはったけ」て言うた。

 ほうして、うさぎは

 すぎーぶねぁー すいーとすい

て、川ん中へ、すうっと出た。続いて狸が、

 べとーぶねぁー ばくんとすい

て言いながら、櫂で舟べりをはったいたところが、でっこい穴が開いたてがんだ。

「ああ、うさぎどん。大変だぁ。舟に穴が開いた」

 ほしたら、うさぎが「そっから、でっこい魚が入るがんだすけ、今一つはったけ」て言うたんだ(言ったから)、狸はまた、

 べとーぶねぁー ばくんとすい

て言いながら、ガキンと、さっきより豪気に叩いたと。

 舟はぐしゃぐしゃあと壊れて、川ん中へ潜ってしまった。ほして、狸は死んでしもうたてんがね。

 

 うさぎは狸を引っぱりあげて、ふくずって(引きずって)歩いて行ったと。ほしたら百姓の家があって、そこに、おめえたちみてえな子供が二人して留守番してたと。

 うさぎが、「ら、汝ら。ととかか何処どけ行った」て聞いたら、子供らは「田んぼへ行った」て言うたと。

「んだ(んじゃ)、鍋持ってこい、包丁持ってこい」

て言うて、みんな子供に持って来さして、火をどんどん焚いて、狸のいい身だけを汁にして、いっぱい食ったと。ほうして、《狸の金玉八畳敷き》って言うぐれぇでっこい狸の金玉を、串に刺して焼いておいたと。

ら、汝ら。ととかかが帰って来たら、『これ、山のうさぎが土産に置いてった』、そう言え」て言うて、うさぎは、ぴょうん、と出て行った。

 暑っちゃい時だんだ、腹くっちゃん(腹がくちく)なったし、うさぎは涼しげな夕顔ゆうごうの棚の下へ行って、ふっくりけえって(ひっくり返って)、ごおっ、ごおっと昼寝してたと。

 したら、ととかかが田んぼから帰って来た。見たら、鍋や包丁が出してあるし、火も焚いた跡がある。

「お前方、なんだ。あれほど言いつけてあったのに、なんで火ぃ焚いた。火事でも出したらどうしる」って、脅しつけたと。

「いや。オラたちでねえ」

が焚いた」

「山のうさぎが狸 て来て、狸汁にして食うたがだ。オラたちにはなんでも(なんにも)食わせねえで、てめぇばっか食うて逃げてった」

「どこへ行きやがった」

「あの夕顔ゆうごうの棚の下で、昼寝してら」

 ととは、「ようし。こんちきしょう」てがんで、そこへ行って、うさぎをはったき殺してしもうたと。

 

 いきがポーンとさけた。



参考文献
『雪の夜に語りつぐ ある語りじさの昔話と人生』 笠原政雄語り 中村とも子編 福音館文庫 2004.

※まずは、「カチカチ山」A〜Dまでの全ての要素が網羅されている例話を紹介。

 C型(標準的な「カチカチ山」)の結末に、うさぎが「子供が留守番をしている家に行って傲慢に狸汁を作らせ、食べる」という、山姥が留守番の娘を訪ねてあれこれ調理道具を出させたりした挙句に食い殺す、東北に伝わる民話群を思わせるエピソードがくっついているもの。狸汁で満腹していびきをかいて寝ている姿は、「狼と七匹の子ヤギ」や「赤ずきんちゃん」で、子ヤギたちや赤ずきんを食べた狼が腹を膨らませて寝ていて、その隙に殺されるという結末と全く同じである。うさぎが仇討の正義の味方ではなく、(婆汁を作った)狸と分身のように似てきていることにお気づきだろうか。

瓜姫  日本 岩手県紫波郡飯岡村

 昔、婆が川で瓜を拾い、真綿でくるんで戸棚にしまっておくと女の子が生まれた。瓜子姫子と名付けてたいそう可愛がっていた。

 ある日、両親の留守中に鬼がやって来て、瓜子姫子を食い殺した。両親が帰ってくると、火棚の上で満腹した鬼が寝ていたので、家ごと焼いて殺したという。


参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950.


参考 --> 「山母の話」【瓜子姫

 ただし、上の例話ではうさぎは最後に叩き殺されてしまうが、危ういところで知恵を働かせて逃走する、という結末の方がメジャーであるらしい。それに関しては「カチカチ山(D型)」を参照。



カチカチ山(C型)  日本 岩手県和賀郡更木村

 昔あったづもな。

 爺さまど婆さまどあったづも。山畑サ行って、畑打ちばしてるづど、けづな(悪い)狸が出はてきて、休み石サ座てけづがって

 爺なの右くわコぁ、でんぐりぼ

 爺なの左鍬コぁ、でんぐりぼ

と、あらかった(からかった)

「このロクでなし狸ァ、人サ隙だればり、かげる(人に面倒ばかり、かけさせる)

と爺さまァごせ焼いて(怒って)くわ持って追っかけた。狸ァ、「ほりゃ、爺な尻もちついで、でんぐりぼ」ど、尻コただき叩き、山ん中サ逃げてしもた。

 そん次の日も、爺さま山畑打ってられば、狸ァ出はてきて、「爺なの右鍬コぁ」ど、こ切なぐ(うるさく)絡んでくる。なじょにもならないので爺さまは、そんまた次の日は、休み石サ トリモチば、べらりとくっつけでおいだ。狸はそれども知らねで、今日もまた休み石サふんねまって(腰かけて)

 爺なの蒔く種ァ 千粒ァ一粒

 晩げになったら 元無しだ

と、爺さまが、なんだかやらの種下してるのを見て、囃かした。

「ほれ、この狸ァ、また今日も居がったか。いつもかづも、けづつ(悪い)奴だ」ど、藤蔓つかんで、爺さまはどしゃどしゃと追っかげで来た。狸ァ逃げべとしたども、トリモチがくっついでるもんだから、なじょにもかじょにもならなかった。

「狸は尻べだ、根が生えた。晩げにァ、狸汁で元無しだ」ど、爺さまは藤蔓でぐるぐる巻きにして家サ持って帰り、

「婆な婆な、晩げなは(晩になったら)狸汁にしもさえ」と戸の口サ吊るしておいた。

 婆さま、庭前で粉コば搗いてるづと、狸ァ戸の口から、

「お婆さまー、お婆さまー、なんぼ粉コ搗き申すどす」ど、声コかげだ。婆さまは「三臼 三半切(たらい) 三重ね」ど言うど、「あや、こどけ(気の毒)だやな。そんじゃ、オラも搗いてすけるはんて、この藤蔓ばちょっとこま(ちょっとの間)解いてけでござい」ど、持ちかげてきた。

「爺さまに怒られるから、オラいやんか」

「なに怒られべしや。粉コ搗き終わったらば、元のように吊るされるはんて……」ど、どうにも小うるさいので、気のええ婆さまは そんではと、解いてやった。

「婆さまし、オラ搗くはんて、婆さまァ手合せ(杵で搗くのに合わせて手で臼の中身を掻き回すこと)してがんせ」と粉ば搗くふりして、いきなり、杵で婆さまのひたえこびごきんとぶつくらせで(ぶちくらわせて)叩き殺してしまった。そして、婆さまの皮ば、ひっぺがして被り、婆さま汁ばこさえて、爺さまの帰るの待っていた。

 晩げ方(夕方)になるど、爺さまは山がら「婆な婆な、腹減ったじゃ。婆な婆な、狸汁ァ出来たどが」ど、戻ってきた。

「あやや、爺さまし、遅がったなす。狸汁ァ煮えでるはんて、食ってごぜ」ど、婆さまに化けた狸は婆汁を勧めた。爺さまは、これはご馳走だど、一口食べてみるど、なんともひょんたな(奇妙な)味がする。

「婆な、婆な、なんたら可笑しな味コのする狸汁だべ」ど、小首コ傾げるど、「狸ァ、煮られるづき、苦しっ屁コ垂れでらけがら、その味だべます」と、狸婆さまはおそ知らねぷりしていた。「ひょんただども、美味がった、美味がった」ど、爺さまそれでも三膳三椀食べた。食べだのを見るづど、

 婆 奥歯コサ ひっついだ

 婆汁食って 可笑しじぇやい

ど、狸ァ、婆皮べぇらり ひん脱いで、ぼんぼり、ぼんぼり、奥山サ馳せで行ってしまった。

 

「あや、口惜しじぇ、えんえん。婆さませられたが、えんえん」ど、爺さまは吃驚にして泣いでるづど、そこサ、

「爺さまし、なに泣いてるどす」と、兎どのがちょこちり、ちょこたりやって来た。

「なにもかにも無いもす。兎どのや、よく聞いてくれ申さい」ど、爺さまは泣ぐ泣ぐ、深山の悪狸に婆さま殺されで煮て食せられだ話をした。

「爺さまし、泣き申さな。俺が仇討ってるはんで」ど、兎は爺さまサ精をつけて(元気づけて)くれだ。

 

 兎は爺さまから粉団子こさえてもらって、深山サ行き、去年の立萱刈るふりばして、

 立萱一本 千把刈り

 明日は長者の 葺き替えだ

ど、唄ってるど、欲の皮の突っ張った狸は、ほんだらオラも萱刈って長者どのさ売りつけて来んべど、「や、や、兎もらいな、オラも仲間にでで下ない」ど、のそのそ出はて来た。しめたと思ったが、兎は、「あ、えども えども。づっぱりたっぷり刈ってござい」ど、何食わぬふりして仲間にでだ。

 さて、萱もづっぱり刈れだので、狸ァほくほくもんで、「兎もらいァ、まだがな、長者どんサ売って来べもす」ど、動きもとれないほど背負しょんだ。兎は、ちょこばりちょっとだけ背負しょって、狸の後サ付いで出かけだ。

 少し行ぐど兎は、「ああ重で萱だごど。ここサ捨ちゃってぐべがな」ど言うど、狸は「あや、折角の萱コ勿体ねぇじゃ。そんでは俺もサ乗せでけろ」ど欲濃ぐ、兎の分までもらって背負しょった。兎は身軽になったで、狸の後から、かちっかちっと火打石ば鳴らした。

「ありゃ、兎もらいな、かちっかちってのァ、何の音だべな」ど、狸はそれを聞き咎めで訊いだ。

「なにし、あれはかちかち山のかっちり鳥だべ」ど、兎はおそ知らねふりして答えだ。

 そのうち狸の萱に火打石の火が点いたもんで、ぼうぼう燃え出しだ。

「ありゃ〜っ、兎もらいな、ぼうぼうづのァ、なんでござる」ど狸はまた気にしだしたので、「なに、ぼうぼう山のぼうぼう鳥だべ」ど、兎はびつくじゃがたり、やいほいど逃げてしまった。

 さて、逃げた兎は先回りして、藤蔓コたんきたんきと切っているど、狸は大火傷して、うんうん唸りながらやって来た。

「やあ、狸どのな、なに唸ってるどす」ど、兎は白切って呼びかけた。

「なにもかにもあるがな。よぐも俺ば謀ったな」ど狸は真っ赤になるど、兎は全く存じもないという顔つきで、

「はでなはてな、狸もらいは何ごしゃぐ怒るどす。萱山の兎は、萱山の兎。藤山の兎は何知るべき」ど、とーんとぅ すっほけたすっとぼけた

「あ、それもそんだ」ど狸は気を直して、「兎もらいな、それもそんだが、なじょにもかじょにも火ぶぐれが痛くてならぬ。なんとが癒す工夫コ、なかべか」と泣き面して頼んだ。

「あ、それだらば説くねども。オラの採ってる藤蔓コでまじなねこどすれば、すぐ治る」ど、だまくらがした。

 狸は、なんでも治してもらいたいの一心なので、兎の言いなり放題になってるど、とうとう藤蔓でぐるぐる巻きにされでしまった。「兎もらいな、何するでぇ。痛でじぇ、痛でじぇ」と、狸は大泣き立てだ。

「オラの薬コぁ、少々利くども、なに、すぐ治るはんて我慢してれござい。俺ァ背負ってあげるすけに……」ど、兎は泣き叫ぶ狸ば、げぇらり ひっちょって、ぼんぼら、麓の爺さま家サ駆けつけだ。そして、

「お爺さまし、お爺さまし、狸ば生け捕って来もうしたぜ」ど、藤蔓巻きの悪狸、どったりと下ろした。

「やあやあ兎どのな、ござれどうぞ」ど、爺さまは途方もない喜びで、早速 狸汁ばして、兎ともども、

 あや嬉しんじぇ、ぱっくりこ

 あや本望だじぇ、ぱっくりこ

と、ひっぱりおっぱり食べてしまったとさ。

 どんど払え。



参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950.

※もっとも基本的なタイプの「カチカチ山」。「爺が狸を捕まえる」「狸が婆を殺して逃亡する」「兎が狸を知恵でいたぶった末に殺し仇を取る」という要素が揃っているもの。(ただ、上の例話は泥舟のくだりが欠落している。)

 上の例話では、兎が狸退治の謝礼として粉団子をもらっていたり、狸が兎の分まで荷物を背負ったのは欲心からだったとしていたり、筋立てが理にかなっている。(前半と後半で、狸のキャラクターに差異を感じない。)語り手のセンスを感じる。長野県の類話では、山に薪取りに行くと狸は怠けるが兎は勤勉に三把拾う。しかし帰り道で兎が薪が重いと言うと狸が代わって背負う。こちらは微妙なアレンジか?(これだと狸のキャラクターがよく分からない。横暴だが面倒見はいいというジャイアン的キャラ?)

 物語中に含まれるそれぞれの要素が海外の説話にも見られる。これらに関しては<カチカチ山のあれこれ>にて。

 

 以下、類話を紹介する。

カチカチ山  日本 岩手県遠野市

 むかす、あったずもな。

 あるところに、爺さまと婆さまとあったずもな。爺さま、いっつも畑サ行って、畑サ掘れ、種っコ蒔えたり、畑仕事稼であったずもな。

 あるとこ、豆っコ蒔くサ行ってらずもな。して、爺さま、

 一粒まけば、十粒だあ、
 十粒まけば、百粒だあ、
 百粒まけば、千粒だあ

って歌っコ詠って、蒔えてらずもな。そうしてば、狸ァ来て、

 一粒まけば、百粒だあ、
 十粒まけば、千粒だあ、
 北風ァ吹けば、種無すだあ

って言ったずもな。爺さまごしぇやいで(怒って)、その狸ぼんまくった(追い払いまくった)ずもな。

 そしていたったず、また次の日も行って、爺さま歌っコ詠って、

 一粒まけば、十粒だあ、
 十粒まけば、百粒だあ、
 百粒まけば、千粒だあ

ってれば、また狸ァ来て、

 一粒まけば、百粒だあ、
 十粒まけば、千粒だあ、
 北風ァ吹けば、種無すだあ

って悪戯してあったずもな。ごしぇやいてからにその爺さま、狸押さえべ(取り押さえよう)としたども、押さえかねたずもな。

 次の日ァ、あんまりごしぇやけた(ムカついた)からトリモチこしゃえて(こさえて)からに、木の根っ子サ持ってって貼っつけておいたづもな。

 相変わらず狸ァ来て、爺さま、

 一粒まけば、十粒だあ、
 十粒まけば、百粒だあ、
 百粒まけば、千粒だあ

ってば、その口真似してあったずもな。

 一粒まけば、百粒だあ、
 十粒まけば、千粒だあ、
 北風ァ吹けば、種無すだあ

「この、くされもの」

ってぼんまくべとすてば(追い払おうとすると)、狸の尻アべったりくっついてる、動かれねかったど。そして、狸押さえて(取り押さえて)しまったずもな。

 

 そして爺さま、家サ担いで来たずもな、狸。そして、土間の桁さ吊るしておいたずもな。婆さま、粉はたきしてらったずァ(製粉をしていたのだが)、そしてばその狸ァ、 吊るされていてから(吊るされていながら)、「ばあさま、ばさま。重だくねか杵ァ。おれァ搗いてけべか(搗いてやろうか)」ったずもな。

「いいじぇ。お前なんど頼まねじぇ」って、ほれ、婆さま、どつどつ、どつどつと粉はたきしてれば、またの、

「ばあさま、ばさま。重だくねか。おれ、搗いて助けっからよ。一時間、縄っコ緩めてけろ」ったずもな。何回も喋っから、婆さまごしぇやけた(うんざりした)から、
「ほんだら、ぺっこ(ちょこっと)緩めてけっか」
って、ぺっこ緩めてけたずもな。そうすると狸ァ足抜いてすまって、降りてきたずもな。そして、
「どら、婆さま。おれ、搗いてけっからよ」
って。婆さまに粉っコかんまさせて(掻き回させておいて)、搗いたずもな。それまでいかったずが(そこまではよかったのだが)、婆さまの頭がんぎがんぎと搗いて、婆さま殺すてしまったずもな。

 爺さまァ、「婆さま、婆さまあ、今夜、狸汁煮てろやい」って言って、行ったずもな。だから夕間方帰ってくるあたりァ(頃には)、その狸ァ婆さまに化けて、そして婆さま汁煮てらずもな。して爺さま食せたずもな。して、煮て食ってれば、

「爺さまな、爺さまな。なんてがあ(どうですか)」ってば(と言うので)
「ほにさなあ、なんとも言やれねえなあ(そうだなあ、なんとも言えないなぁ)」ってば(と言うと)
「うめかんべえあ(美味しいでしょう)」った(と言った)ずもな。

「なんだか、さっぱりうめえ味もされねが(美味しい味がしないが)」ってば(と言うと)、その狸ァべぇ〜らり、着てら(着ていた)婆さまのせんだく(着物)ぐぅるり脱いで、
イエー、騙されだ。爺さま、婆汁食った」って、走えで(駆け去って)しまったんだと。

 

 爺さま悔すくて、悔すくて、「おいおい、おいおい」って泣いてらば、そこサ兎コァ来たったど。

「なして泣えてら」って言うから、
「今日ァ狸ァあんまり悪戯すっと思って、押さえてきて土間サ吊るしてれば、婆さま騙して、粉搗いてらのを、粉搗いて助けるって婆さま騙して、婆さまの方殺されてすまった」って、そして
「今、おれ、婆汁せられた」
って泣えでらずもな。してば、その兎っコァ、
「いい、いい。おれ、仇とってけっ(仇とってやる)からよ」って言ったずもな。

 

 そしてその次の日、狸のとこサ行ったずもな。「今日、山サ行かねが」ってば、「うん、行ってもいい」って。

「んだら今日、かや刈りに行かねか」ってば、
「うん」
「どこそれ山サ、萱刈りに行くべじゃえ」

って、そして行ったずもな。萱刈って、狸サしょわせたずもな。我もぺっこ(ちょびっと)しょったずもな。狸ァ先に立ってぎしぎしと行ったずす。兎、歩けなかったずもな。

「なんたら重てえか(そんなに重たいか)。しょって助けべか(背負って助けてやろうか)」ってば、
「ほにさ、ほんだらぺっこしょって助けられっかなあ(それならちょっと背負って助けてもらおうかな)

って、我ののもしょわせたずもな。それでも歩けなかったずもな。そしてば(そうしたら)狸ァ、

「なあんたら、お前歩けね(なんでまあ、お前歩けない)。どら、だら(それなら)またしょって助けからよ。お前、空かばね(手ぶら)で歩け」って。そしてからに、兎の荷、みんなしょったずもな。そんだども兎ァ歩けねかったずもな。

「なんたら甲斐ねえもんだべ(なんてひ弱なもんだろ)。どら、ほんだら、おれサ負ぶさってやんべえ(俺に負ぶさらせてやろう)」ったずもな。

 そして、兎ァ狸サ負ぶさったずもな。そうすっと、かつ、かつっと、火打づ石打ったずもな。してば狸ァ、

「何だ、あのかつかつ、づのは」ったけ、
「ここはかつかつ山づどこで、かつかつ鳥つ鳥っコァ叫ぶとこだから、その音っコでねえか」って言ったずもな。
「はあー」って言ったずもな。そすてるうつに、背中のそれ、萱ァ、ぼっぼっ、ぼっぼっと燃えてきたずもな。

「あのぼおぼお、ぼおぼお、づ音ァ何だ」てば、
「ここァぼおぼお山で、ぼおぼお鳥づ鳥ァいたから、その音っコだこたあ」

ってるうつに、狸の背中すっかり焼けてすまったんだと。

「あつあつ、あつあつ、あつあつ」って泣えたずもな。してハァ、兎は走えで(走り去って)しまったずす。

 そして狸ァ家サ行ってから、今度ァ次の日ァ、
「なんじょにか(どうにかして)、治してもれぇてえ」
と思って、その兎のいたところサ行ったずもな。してば、

「なあに、おら、ほんたなこと(そんなこと)知あねえじぇ。おれでねぇじぇ。おれはここの山の兎で、それはそっつの山の兎なんだ。おれァ知あねえ」って。

「なんたって、痛くてあわねえから、薬コこしゃえてけろ」ってば、
「こしゃえるよう(作れるよう)教ぇっからよ」って、
「味噌サ、南蛮(とうがらし)入れて、練って付ければすぐ治るつから」って、味噌サ南蛮入れてから、こしゃえてけた(こしらえてやった)ずもな。背中サべらり(べったり)塗ってけたずもな。そうすっと、狸ァ痛てぇくて、そこいらじゅう転んで歩ったずもな。

 そしてまた次の日、
「おれサ、こななものの付けでけた(こんなものを付けた)」って、その兎サ行ったずもな。

「おら知あねえじぇ。おら、そんたなとこさ行きゃあすめし(そんな所へ行きはしないし)、おら、ここしかいねえもの。それは、どこどれ山の兎なんだ。おれではね(俺ではない)。おれではね」って言ったずもな。

 そして今度ァ、
「ふだらば、舟っコこしゃえんべじぇ(舟をこしらえようぜ)」ったずもな。

「狸ァ黒れから、土でこしゃえろじゃ」って、土でこしゃらせだずもな。兎の方ァ「おれは白れから、木こでこしゃえる」って、木こでこしゃえたんだと。

 そうして池サ入って、舟遊びすてるうつに、狸の舟っコァ溶けてすまったんだと。そして狸ァ沈んですまったど。

 その時その兎、
イエー、爺さまの仇とった」って。

 そして爺さまのとこサ、
「爺さま、爺さま、泣くな、泣くな泣くな。爺さまの仇とったからな」って言ったんだとさ。

 どんどはれ。


参考文献
『鈴木サツ 全昔話集と語り』 鈴木サツ語り 小沢俊夫/遠藤篤/荒木田隆子編 福音館書店 1999.

※婆さんが殺された現場にいなかったのに、ウサギに「粉搗いて助けるって婆さま騙して、狸が婆さまを殺した」と正確に報告する爺さん。霊媒?

カチカチ山  新潟県

 昔、爺と婆がいた。ある日のこと、爺がむじなを捕まえてきて土間にぶら下げ、「今晩は狢汁をこさえてくれや」と言ってまた出かけた。婆が米を搗いていると狸が「縄をほどいてくれれば、それっぽっちの米、すぐに搗いてやる」と言う。婆が縄をほどくと狢は一生懸命米を搗いて、「婆さま、よく搗けたか見てくれ」と言った。婆が臼を覗き込むと、狢は杵で婆を殴り殺した。

 狢は婆に化けて婆汁を作り、爺に食わせた。爺がうまいうまいと言って食べると、

 爺さの馬鹿が
 婆さ汁 食いやがった
 爺さの婆食い
 オラ、今朝の子狢

と歌いながら山の方へ逃げてしまった。爺は怒って狢を追いかけたが、とうとう捕まえることが出来なかった。

 爺が泣いていると兎がやってきた。訳を聞いた兎は「オラが仇討ってやる」と山の方へ跳ねて行った。

 兎は狢の家に行って「狢どん、狢どん、一緒に萱刈るまいの」と誘い、一緒に萱山へ行った。二人で三把ずつ刈って帰ってきたが、途中で兎がしくしく泣きだした。

「どうした、うさどん」
「オラ、腹が痛くて腹が痛くて、もう歩けん」
「じゃ、オラがみんな負ってやら」

 狢は萱をみんな背負って歩きだした。しばらく行くとまた兎がしくしく泣きだした。

「どうした、うさどん」
「足が痛くて足が痛くて、もう歩けん」
「じゃあ、オラがおぶってやろう」

 狢は兎を背負っている萱の上に乗せてやった。そこで兎は火打石を取り出してカチカチと打ち合わせながら、
「明日は天気だか。カチカチ鳥が鳴かぁ」と言って、萱に火をつけ、狢の背から飛び降りると一目散に逃げて行った。

 狢は背中に大火傷を負って、「痛い痛い」と喚きながら たぜ山に駆け込んだ。そこには兎がいて、ゴリゴリゴリゴリと味噌をすっていた。

「うさぎどんたら、ひどいや。カチカチ山でオラの背中、こんげね火傷した」
「カチカチ山の兎はカチカチ山の兎。オラは蓼山の兎で、毎日毎日 蓼味噌すっている」
「ほんだかい。ときにお前さん、味噌をすって何するい」
「これはのし、火傷の薬で、明日、市に持って行って売るのだのし」
「では、オラにもちょっと付けてくれんかい」

 兎は狢の背中に、たっぷり蓼味噌を塗って逃げて行った。たでには強い辛味と殺菌力があり、香辛料や虫刺されの薬として使われる)

 背中の火傷がますますヒリヒリ痛んでやりきれなくなった狢が笹山に駆け込むと、そこには兎がいて、せっせと笹の葉を採っていた。

「やあ、蓼山のうさどん。お前はなんたらひどいことをする。背中が余計痛んできたじゃねかやれ」
「蓼山の兎は蓼山の兎。オラは笹山の兎で、毎日笹を採っている」
「その笹で何するんだ」
「お前のような疑り深い者には聞かしてやらん」
「そんげなこと言わねで、聞かしてくれ」
「この笹の葉をケツに縫い付けておいて、飯を食わんでもよいようねするがんだ」

「うんこさえしないば、まんま食わんでもよいのけ」と狢は目を丸くして、「ひとつオラにもやってみてくれんか」と頼んだ。兎は狢のケツに笹の葉をシクムクシクムクと縫い付けて、一目散に逃げて行った。

 そのうち狢はうんこがしたくなってきたが、どうしても出せない。七転八倒して、縫いつけた笹を木の根っ子に引っ掛けて破り、やっとのことで助かった。

 それから狸が杉山に行ってみると、兎がせっせと杉の皮を剥いでいる。

「うさどん、うさどん、杉の皮で何するや」
「舟をこさえて、川で魚を獲るがんだ」
「オラにも一艘こさえてくれんか」
「舟をこさえるには土がいるすけ、土をうんと背負しょってこねばならんで」

 そこで狢が汗水たらして土を背負ってくると、兎は自分用には杉皮の舟を作り、狢には土舟を作ってやった。二人はそれを川に浮かべ、並んで漕ぎ出したが、川の中ほどまで来たと見るや、兎はいきなり櫂棒で狢の土舟を叩いた。たちまち土舟が崩れ始めたから狢が青くなって言った。

「おいおいうさどん、何するや」
「その欠け目から魚が入ってくるがんだ」
「ああ、そうかい」

 狢が頷くと、兎は

 杉舟こーい
 土舟こっくらせ

と歌いながらどんどん叩いたので、とうとう土舟は沈んで、狢は溺れ死んでしまった。

 こうして兎は婆の仇を討って、爺と狢汁を煮て食ったということだ。

 いっちゃ ぽおんとさけた。


参考文献
いまは昔 むかしは今3 鳥獣戯語』 網野善彦/大西廣/佐竹昭広編 福音館書店 1993.

※兎が狢の土舟を叩いて破壊し、沈めてしまうくだり。インドネシアの民話に似たものがある。青鷺は猿を苺採りに誘い、木の葉で舟を作って海に漕ぎ出す。しかし沖に出たところで青鷺は舟をつついて破り、よって舟は沈んで猿は溺死した。(『黒潮につながる日本と南洋』 中田千畝著 郁文社 1941.)

 しかし、しくしく泣いては狢をいいようにいたぶる兎の様子は、小悪魔的な少女を連想させる。太宰治が「カチカチ山」をテーマにして、兎の美少女が言い寄る中年男の狸をいたぶったあげく殺してしまう小説を書いたのもむべなるかな。

 次は、結構な変わり種。物語が再構成され、完全に違うテーマの話になっている。

カチカチ山  日本 大分県宇佐郡宇佐町

 爺と婆がいて、うさぎを飼っていた。

 ある日のこと、爺は山に薪取りに出かけて狸と一緒に仕事をしたが、帰り道で狸が爺の背負った薪に火を点けたので、爺は焼け死んでしまった。

 狸は爺の煙管と煙草入れを盗って行ったが、途中で爺を迎えに来た婆とはち合わせた。婆が「それは爺さんの煙管と煙草入れじゃないか」と気付くと、狸は逃げて穴の奥に隠れた。

 婆が、爺が狸に殺されたことを悟って泣いていると、うさぎが来て慰め、仇討ちを誓った。

 うさぎは狸と薪取りに行って、カチカチと火打石を鳴らして狸の薪に火をつけ、爺と同じ目に遭わせて狸を焼き殺した。そして狸で団子汁を作ったという。


参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950.

 ところでさいたま県の類話だと、爺が狸汁(実は婆汁)を食おうとして、一本の髪の毛が入っているのを発見する、というくだりがあって、なんだか生々しくて恐ろしい。新潟県の類話だと、爺が食べながら耳や指を発見して「耳がある、指がある」と怪しむと、狸は「耳汁だ、指汁だ」と言って全て食べさせてしまう。広島県では爺は食べながら「この汁には骨がある、髪の毛がある」と言って、狐が婆を鍋にしたことを自ら悟る。しかし長崎県で採取された例のインパクトには敵わない。爺は汁を全て食って、鍋の底から出てきた婆の首を発見する。…これは「タムとカム」「小町娘とあばた娘」などで、継母がそうとは知らず料理された娘の肉を美味しい美味しいと食べて、最後に首を発見して卒倒するのと同根のモチーフだろう。

 狸が作る婆料理は、なますのこともある。



カチカチ山(A型)  日本 鹿児島県屋久島

 昔々、あるところに爺さんと婆さんがおった。

 ある日、爺さんが畑仕事していると、一匹の猿がやって来て、

 あのじいが畑打ちょ、見〜たかいな

 左取っちゃキチリン、右取っちゃキチリン

 ホーイ、ホーイのホイ……

と、長い手足や赤い尻を振り振り囃し立てた。爺さんは猿を睨んで怒鳴りつけた。

「わや(わりゃ)、猿どん。オイがせっかく畑を打っておれば何をひやかすか。明日、罠を掛けて取って食うがよかか」

 それでも猿は囃し立てるのをやめなかった。爺さんはあんまり腹が立って、もう仕事する気もなくなってプリプリ怒りながら家に帰った。

ばば、婆、今日はオイがところに猿どんがやって来て、ワヤク(冗談)ばっかい言うて仕事は何もでけんじゃった。明日はあの猿を捕めてくっかァね」

 爺さんは一晩かけて丈夫な猿罠をこしらえ、あくる日に畑の近くに仕掛けておいた。すると猿がやって来て、例の調子で囃し始めた。

 爺じい、爺はまた来たか

 あの爺が畑打ちょ、見〜たかいな

 左取っちゃキチリン、右取っちゃキチリン

 ホーイ、ホーイのホイ……

 ところがそのうちに、猿は爺さんが仕掛けた罠に、すたっと掛かってしまった。

「あはははは。それ見たか、猿どんめ。猿罠に掛かったぞ。ひゅうひゅうっ」

 爺さんは猿をぐるぐる巻きに縛りあげて、大喜びで家に帰った。

「婆よ。今じゃった(ただいま)。今日は猿を捕めてきたど。ほら」

「ああ、それはそれは。それはよかった」

 猿は手足を縛って家の柱にくくりつけられた。

 あくる日も爺さんは畑に出かけていき、家では婆さん一人、臼に籾を入れて手杵でコットン、コットン、ザック、ザックと米を搗いていた。すると猿が、

「婆ちゃん、婆ちゃん。オイが縄をぇてくえんか。婆ちゃんの米搗き、一人じゃ難儀じゃよが。オイも加勢すっから」

と言う。婆さんは、ぐるぐる縛り付けられた猿が可哀想になって、縄を解いてやった。すると猿は大喜びで婆さんの米搗きの手伝いを始めた。ところが婆さんがちょっと油断した隙に、杵を振り上げて、

「このクソ婆ァめ」

と言ったかと思うと、婆さんの頭をと叩いたのでたまらない。婆さんはころりと死んでしまった。

 猿は婆さんの体を料理して、鍋に入れて煮てしまった。そして婆さんの着物を着て婆さんに化けていた。やがて

「婆よい、今やったよ(今戻ったよ)」と爺さんが帰って来た。

「はいよ。今じゃったかい、爺さん」と、猿は婆さんの声を真似て言い、床に寝たままこう続けた。

「爺よ、今日はや、どうも具合が悪ぅしていかん。そこに猿を料理した猿鍋があっかァ、爺は一人で夜飯よめしてくぇ」

「猿鍋か。それは御馳走ごっそうや」

 爺さんは上機嫌で、鍋の汁も椀についで夕飯を食べた。ほっぺたが落ちそうに美味かった。

「爺よ、猿鍋は美味かかい」

「うん、猿鍋て、ほんのこて(本当に)美味かもんじゃ」

 爺さんが食べ終わった頃、婆さんに化けた猿が起き上がってくると囃し始めた。

 ホーイ、ホーイ

 あのおんじょを、見〜たかいな

 うんぼうで、見〜たかいな

 ホーイ、ホーイのホイ

 最初、爺さんは何の事だか分からなくてキョトンとしていた。だが猿がもう一度、手振り身振りで囃すのを見てハッと思い当たった。

「わや(わりゃ)、猿め。婆を打ちこれぇて、俺に食わせたか。ほんのこて、おーばちな(ずるい)猿め!」

 爺さんはカンカンになって怒ったが、猿は

「あはははは、あははは。ひゅうひゅうっ」と言いながら逃げて行った。

 可哀想に。爺さんは婆さんを失って、とうとう独り者になってしまったそうだ。



参考文献
「おーばちな猿」/『日本の民話25 屋久島篇』 下野敏見編 未来社 1974.

※佐賀県の類話では、最後に爺が逃げて柿の木に登った猿を発見し、その尾を切るという、猿の尾が短い由来譚になっている。

 標準の「カチカチ山(C型)」の前半部にあたる部分のみが独立しているもの。

 獣が老婆を殺し、老婆の服を着てなりすまして、布団をかぶって寝て、やってきた家族を騙して老婆の肉を食べさせる…というくだりは「赤ずきん」と全く同じである。また、捕らえられた者が老婆を騙して杵で頭を殴って殺し、変装(偽装)を経て逃亡するモチーフは「貧しいみなし子の娘と盗賊」にも見える。

カチカチ山  日本 青森県八戸地方

 昔、あるところに爺さまと婆さまがあった。ある日、爺さまが畑に種まきに行った。

 一粒ァ 一粒ァ 千粒になーれ
 二粒ァ 二粒ァ 万粒になーれ

と言いながら種をまいていたら、山の狸が出てきて

 一粒ァ 一粒ァ まーまよ
 二粒ァ 二粒ァ まーまよ

と爺さまの口真似をして言った。爺さまは腹を立てて、なんとかして懲らしめてやろうと思いながら、その日は家に帰った。あくる日、爺さまは朝早く出かけて行って、昨日狸が腰かけていた根株に松脂を塗っておいた。そうして、知らんふりをして昨日のように

 一粒ァ 一粒ァ 千粒になーれ
 二粒ァ 二粒ァ 万粒になーれ

と言って蒔いていると、昨日の狸が来て何も知らずにその根株に腰かけて

 一粒ァ 一粒ァ まーまよ
 二粒ァ 二粒ァ まーまよ

と、また逆言さかごとを言った。爺さんは今日こそはただでおくもんかと意気込んで、「この畜生ァこりゃあ」と追った。狸は尻がすっかり根株に粘り付いていて、逃げようにも逃げられず、ついに爺さまに捕まった。

「晩げ(夜)、狸汁にすべし。逃がすなよ」と婆さまに言いつけて、まげに吊るしておいてまた畑へ行った。

 婆さまははたきものをしていた。それを見て狸は
「婆さま、婆さま、俺ァ叩いてけるしけぇ(叩いてやるから)、縄コ解いでけせぇ」と言った。

 婆さまは初めのうちはいやいやと言っていたが、あんまり言うので仕方なく解いてやったら、婆さまを叩き殺して、その婆さまに化けて、ちゃんと叩きものをしていた。

 爺さまは
「婆ぇ婆ぇ、今帰た、狸汁ァ出来でだ」と畑から戻ってきて言った。そして狸汁だと騙されて、婆汁を食べてしまった。


参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950.

※狸が正体を現して嘲る条が欠けている。

いたずら好きなサル  ブータン

 昔、東ブータン地方の森に、農民たちを困らせる悪戯者の猿がいた。農民たちはこの猿に《タマシブ(腕白な)》という名をつけ、何か悪戯めいたことが起きると「きっとタマシブの仕業だよ」と噂し合うほどだった。

 ある夏の日の午後、タマシブは小さな畑で野良仕事に励んでいた老夫婦のもとに現れた。この老夫婦はタマシブがどんなに悪戯好きの猿かということをまるで知らなかった。

「二人とも何をしているんだい?」
「何をしているかって? お前さん、わしらがケワ・ガム(さつまいも)の苗を植えているのが見えないのか」

 おじいさんはそう言った。ケワ・ガムが大好物であるタマシブは、しばらく考えこんでからこう言った。

「ケワ・ガムはそんな植え方をしては駄目だよ。南ブータンでは特別な植え方をして、そのやり方だと立派な芋が毎年必ずとれるんですよ」
「へえ、そうかい。それじゃ一つやってみせておくれよ」
「まず、苗は茎じゃなく芋の方を使うんですよ。その芋を柔らかく茹でて皮を剥いたものを、青菜で巻いて畑に植えるんです」

 これを聞いたおばあさんは「茹でたケワ・ガムを植えるなんて聞いたことがないですよ。きっとからかわれてるんです。放っておきなさい」と言ったが、おじいさんは「お前は新しいことに挑戦する気がないのか。南ブータンの連中はその方法で金持ちになっているというのに」とさんざん悪態をついた。おばあさんはため息をついて、「ハイハイ、分かりましたよ。それじゃ私は明日市場に持っていくつもりだったケワ・ガムを茹でますから、あなたは青菜を取ってきてくださいな」と言った。

 芋が茹であがって青菜で包まれると、タマシブは「腐るのであまり深く植えてはいけない、後で収穫しやすいように植えたところに目印をつけておかねばならない」とあれこれ指示した。おじいさんはなんて賢い猿だろうと感心したが、お婆さんは「結果を見れば分かることですよ」と相変わらず疑わしげにしていた。

 ところが、芋を半分ほど植え終わったところでお婆さんがふと後ろを見ると、もうタマシブが掘り起こして食べているではないか。

「おじいさん、大変ですよ! 猿の奴が私たちの植えたケワ・ガムを掘り起こして食べているんですよ」

 おじいさんは自分が騙されたことを悟って烈火のごとく腹を立てた。すぐにタマシブを追ったが、それですぐに捕まるほどタマシブも愚かではない。近くのグァバの木に登ると、果汁たっぷりの果実をほおばりながら悠々と老夫婦を見降ろした。おじいさんは自分も木に登った。タマシブはどんどん上に逃げたが、とうとう追い詰められて足を掴まれ、地面に引きずり降ろされた。

「放してくれよ〜、もう絶対にしないからさぁ〜。放してくれたら何でも言うことを聞くよ〜」

 タマシブは大声で泣いて命乞いをした。おばあさんはそれを睨みつけて「おじいさん、こんな猿の言うことを信じちゃいけませんよ。もう充分に私たちを騙してくれたんですからね」と言った。けれどもおじいさんの気持ちは緩んで、罪の償いに何か仕事をさせてやろうと考えた。以前から屋根裏部屋の米をネズミから守る見張り番が欲しいと思っていたのだが、タマシブにそれを任せることにしたのだ。そこで猿を屋根裏に入れて鍵をかけた。それから猿のことなど忘れて働いていたが、数日経っておばあさんが思い出し、様子を見て来るようにと言った。おじいさんは悪賢い猿にうんざりしていたので正直気が進まなかったのだが、おばあさんに促されて渋々見に行った。そこでお爺さんが見たものは、床に散らかった空の米袋と、丸々太ったタマシブの姿だった。

「こっ、こいつ! わしらの米を全部食べおったな! わしらはこれから冬の間、米なしで一体どうやって暮らしていけばいいんじゃ!」

 怒り狂ったおじいさんはタマシブを捕まえて空の米袋に押し込み、口を縛って、おはあさんの働いている畑へ持って行った。

「ばあさんや。猿がわしらの米を一粒残さず食い尽くしおった。それで、これから打ち殺して食べてやろうと思うんじゃ」
「それは良い考えですよ、おじいさん。奴はきっと丸々肥ったことでしょうから、煮て食べてやりましょう」
「そうと決まればさっそく家に帰って斧と鎌を取ってこよう。そして猿を泉に連れて行って料理してやろう」

 袋の中でこの話を聞いていたタマシブは恐れをなし、もがきながら泣き叫んだ。

「おじいさん、もし僕を殺すんだったら、泉よりもっと水のたっぷりあるところでなきゃ駄目だよ。僕を綺麗に洗えるようにね」
「じゃあ、どこがいい?」
「小川の側がいいよ」

 畑から小川まではかなりの距離があったが、おじいさんはタマシブの入った袋を担いで、おばあさんと共に小川へ急いだ。その日はとても暑かったので、小川に着いた時には二人とも喉がカラカラに乾いており、土手に袋を置いてまずは水を飲みに行った。

 二人の気配がなくなったのを感じ取るやいなや、タマシブは爪で袋を裂いて抜け出し、一目散に森へと走った。すぐに気付いたおじいさんが追ったが、土手の砂を投げて目潰しし、木の上に登った。目潰しされて呻くおじいさんの声を聞いておばあさんがやって来た。

「おじいさん、どうしたんですか」
「猿の奴がわしの顔をめがけて砂を投げつけてきおったんじゃ。で、奴は今どこにいる?」
「あの木の上にいますよ」

 おじいさんはよろめきながら起き上がり、手探りで木に登り始めた。おばあさんは木の下で袋の口を開いて待ち受けた。

「おじいさん、猿を捕まえたらこの袋の中に投げてくださいよ。今度は、逃げないように私がちゃんと見張りますから」

 しかしタマシブも二度とは簡単に捕まらなかった。おじいさんが登って来るのを見るや、すぐに地面に飛び降りて森へ逃げ込んでしまったのだ。その動きに驚いた目の見えないおじいさんは、バランスを崩しておばあさんが拡げていた袋の中に落ちてしまった。

 さて、おばあさんが袋に落ちたのが誰だったのか知っていたのかどうかは分からない。とにかく、さっと袋の口を縛ると太い棒を拾い、市場で売るはずだったケワ・ガムを無駄にした、米も全部なくなってしまった、ここ数日の欝憤を晴らすかのように殴りつけた。袋の中からおじいさんが「わしは猿じゃない」と喚いたが、おばあさんが殴る手を休めることはなかったそうだ。

 それで、タマシブの方がどうなったのかは分からない。それ以来、その姿を見た者はいなくなってしまったからだ。ケワ・ガムと米の食べ過ぎで死んでしまったのだろうか。ともかく、もうこの猿の噂もすっかり忘れられたものになってしまった。


参考文献
『ブータンの民話』 クムス・クマリ・カプール編著、林祥子訳 恒文社 1997.

※「賢いモリー」など【童子と人食い鬼】話群では騙され袋に詰められて配偶者に殴られるのは妻であることが殆どだし、[カチカチ山]話群でも鍋にされてしまうのは妻の方だ。けれどこの話では男女逆転している。日本の東北に伝わる「雁とり爺」の結末に類似のモチーフが見える。(屋根から転がり落ちたお爺さんを、下で待ち受けていたお婆さんが、お爺さんの仕留めた雁だと勘違いして殴り殺して鍋にしてしまう。)

《狡賢い者(童子)》を追う《食べる者(人食い鬼)》が、最後に高い場所から転落させられて自分が料理される…という結末は「袋の中の男の子」やグリム版「赤ずきんちゃん」、イギリス民話の「三匹の子豚」にも見える。



参考--> 「瓜子姫子」「お婆ちゃんの話



カチカチ山(B型)  青森県三戸郡五戸町

 昔、兎が山で萱を刈っているところに熊が来て、「何ねすっきゃ」と訊いた。

「寒ぐなるだしきゃ、小屋建てで屋根葺ぐべど思てよ」

 兎がそう言うと、熊は「けゃぐ(仲間に)なるべぁ」と言って手伝いをした。そうして二人で刈った萱を背負ってきたが、途中まで来ると兎は、びくたらびくたらと片足を引きずった。それを見て熊が尋ねた。

「どやったきゃ?」

「足ァ痛くて歩かれなぇ」

「したら萱の上サ乗れ」

 熊は二人分の萱を背負った上に兎を乗せて歩いて行った。兎は火打ち石を出して、かっきらかっきらと火を切った。

「何してるきゃ」と熊が尋ねた。

「ここァ、かっきら坂だ」と、兎はとぼけた。

 少し行くと、兎はふうふうと萱に点いた火を吹きつけた。

「何してるきゃ」と熊がまた尋ねた。

「ここァ、ふうふう坂だ」と、兎はまたとぼけた。

 そのうちに火がぼうぼうと燃えて、兎は飛び降りて逃げた。熊は大火傷してしまった。

 

 それから暫く経ったある日、兎がたんで山で蓼を揉んでいるところに熊がやって来た。

「この腐れ兎め、こなえだ(この間)、人サ火傷させやがったな」

 兎は知らん顔をして強情を張った。

「オラ、たんで山の兎だでァ、んが与太熊ば知らねじゃ」

「したら、蓼、何サ使るきゃあ」

「これァ火傷の薬だでァ」

「へだら、けゃぐ(仲間に)なるべぁ。ぇねも付けてくれろ」

 兎は熊の火傷の傷に、揉んだ蓼を沢山付けてやった。熊は最初は「ああ、ええ気持ちだァ」と言っていたが、後で何もかも痛くなった。

 

 その後、兎が向いの漆山に漆掻きに行くと、またも熊が来て「この間の腐れ兎めァ、また人をふんどい目に遭えだな」となじった。それを聞いて兎は言った。

「山兎ァねァ、ずっぱど(どばっと)居るァね。我ァ漆山の兎だでァ」

「へだら、漆よ何サ使るきゃあ」

「ハァ、寒ぐなるだしきゃ、物なくてもえよね(物を食べなくてもいいように)ケツサ貼るのだァじゃ」

「したら、けゃぐなるべし。我ぇにも貼ってくれろじゃ」

 兎は「仕方なぇやね。したら(それなら)」と言って、渋々の様子で熊の肛門を漆で塞いでやった。

 二、三日すると、熊は腹が張ってどうにもならなくなった。苦しくて転がり回っていると、伐られた竹の先が尻を刺し、穴が開いて、沢山糞が出て、ようやく腹の塩梅がよくなった。

 

 兎は今度はハノ木山に行って、がっきらがっきらとハノ木を伐っていた。また熊が来て「こねぇだの腐れ兎めがコレァ」と責めた。

「我ァ、ハノ木山の兎だでァ、んがば知らねぁや」

「へだら、木伐って何すきゃあ」

「舟いで、魚獲って食ぁね」

「へだら、けゃぐなるべァ。我ぇねも舟矧えでくれろ」

 熊がそう言うので、兎は熊には泥舟を作ってやり、川に舟を担いで持って行って浮かべた。まずは兎が歌いながら漕ぎ出した。

 ハノ木舟ァ ぶんぐら

 泥舟ァ じゃっくら

 熊も喜んで漕ぎ出したが、だんだんと泥が溶けてきて、しまいにはどうどうと水が入って舟が沈み、熊は溺れて死んでしまった。

 どっとはらい。



参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950.

※「熊と兎」という題で知られている。

 兎がどこで何をしていようとも訪ね当ててきて、どんな目に遭わされようと「それじゃ仲間にしてもらおうかな」と当然のごとく言う熊は、考えようによってはストーカーのようで怖い。兎は殺してしまわぬことには逃げられないと思いつめるくらい熊が嫌いだったのだなァと思った。

 冗談はさておき、どうして兎はこんなひどいことをするのか納得できない、と思った人は、イギリス民話の「三匹の子豚」をイメージすると腑に落ちやすくなるのではないだろうか。狼は子豚にしつこく付きまとい、一緒に野菜取りに行こうリンゴ狩りに行こうと猫撫で声で付きまとう。それもこれも子豚を食い殺そうと考えているからなのである。防犯意識の低かった一番目の子豚と二番目の子豚たちは食べられてしまった。しかし三番目の子豚の身持ちはとてつもなく堅い。石の家に住んでいる。子豚は狼を知恵で出し抜き、軽くあしらい続け、ついに逆切れして襲い掛かって来た狼を大鍋で煮て食べてしまうのだった。「カチカチ山」で、兎が最後に狸を狸汁にして食べてしまうように。

 あるいは中国南部のタイ族の「小さな白兎と虎」では、白兎と鹿とジャコウジカが仲良く草を食べていると虎がやって来て「仲間に入れておくれ」と言う。虎はジャコウジカと鹿をこっそり食べてしまい、最後の一匹になった白兎は仇討ちのため、そして自らの身を守るために虎を知略で打ち負かす。これら《身を守るため》という動機は、現代でも理解しやすい。



参考--> [ずるがしこいウサギ



カチカチ山(D型)  日本 岩手県岩手郡雫石村

 昔あったとさ。

 あるところに熊と兎とがあった。大森山のような所へ二人で薪取りに行くことになった。そこで二人は、けら(螻蛄蓑?)を着てニナ(担い棒か荷縄か何かか?)を腰にさして、まず山へ行った。熊は鈍八で、兎はさかしいから、まだ山へ行きつかないうちから「難儀なぎだ難儀だ」と言っていた。

 山へ行って、がりっがりっと木を伐り始めた。熊は強いから沢山伐ったが、兎は少ししか伐らなかった。取った薪も、熊はうんと背負い、兎はちょっぴり背負って家に帰ることになった。

 ところが兎は賢しいから後に立って、「ああ難儀なぎだ、ああ難儀だ」と言って、歩こうとしなかった。

「兎どの、兎どな。なんたら弱いものでござるな。俺サかっついで歩いてとらなじゃ(俺は担いで歩いているのに)

 熊はそう言ったが、兎はどうしても歩かない。熊は「どれどれ、そらほど難儀だら、俺サ半分よこしてとらなじゃ」と言って、兎が背負っている薪を半分取って歩いて行った。また少し行くと、兎は「ああ難儀だ、ああ難儀だ」と言って歩かなくなった。

「兎どな、兎どな。なんとしたこってざるな。そらほど難儀だら、俺サみなよこしてござい」

 そう言って、熊は今度はみな負って歩いた。

 それでも少し行くと、兎は「ああ難儀だ、ああ難儀だ」と言って、また歩かなくなった。

「そらほど難儀なら、俺サ負ぶさってござい」と言って、熊は兎まで背負って歩いて行った。

 兎は熊の背中で、かちりかちりと火打石で火を切った。

「兎どな兎どな、背中の方で音がするが何でござるな」

「熊どな、あれは かちり山のかち鳥の声さ」と、何でもないふりをして兎は答えた。

 次に兎が火をぼうぼうと吹いた。

「兎どな、兎どな、あのぼうぼういう音は何でござるな」

「あれは ぼうぼう山のぼうぼう鳥コさ」

 兎はそう答えておいて、熊の背中から跳ね降りて逃げてしまった。熊は背中に火がついてだんだん熱くなってきたので、はじめて謀られたことに気がついた。

 熊は大火傷をして、うんうん唸りながら山を越していくと、兎が藤蔓を刈っているのを見つけた。

「兎どな、兎どな、先程はよくも俺を騙して、火傷やけにしたな」

 すると兎は、全く何も知らないという顔つきで

「前山の兎は前山の兎。藤山の兎は藤山の兎。俺が何知るべさ」と言った。熊は、いかにも成る程と思った。

「ときに兎どな。藤を伐って何するつもりかな」

「今日はお天気も良し、ひとつ日向で遊ぶ考えで蔓を採っているのさ」

「それは面白そうだ。俺もせてとらなじゃ(仲間にしてくれないか)

 二人は一緒に遊ぶことにして藤蔓を採った。「何して遊ぶべか」と熊が尋ねた。

「手足をひんまるって(ひっ括って)、山の上から斜面ひらたん転びすると、とても面白い」

「成る程」

 熊は合点して、さっそく自分から始めることにした。二人は山の頂へ行って、兎が熊の手足を結えつけた。

「そら、とても面白いから転んでみとらなじゃ」

 熊は成る程と思って転び出すと、あっちの木の根に突き当たり、こっちの藪の中に落ち込み、面白いどころか死ぬ思いをして谷底に転げ落ちた。手足を結えつけられているので容易に起き上がることも出来ないで、やっとの思いで起き出してみると、兎はもうどこにもいなかった。

 熊はうんうん唸りながら山を越していくと、兎が日向でたでっているのを見つけた。

「兎どな、兎どな。先程はそっちに騙されて死ぬ思いをした。これ、こんなに体に傷が付いているよ。どうしてくれるな」

 兎はなおも何も知らないという顔をして、

「藤山の兎は藤山の兎。蓼山の兎は蓼山の兎。俺が何知るべさ」と答えた。熊は成る程と合点して、それもそのはずだと思った。

「ときに蓼山の兎どな。その、今こしらえているものは何でござるな」

「これは蓼味噌と言って、火傷や打ち傷や皮の破れたところサ塗ると、すぐ治る妙薬でな。今これをこしらえて町サ売りに出かけるところでござる」

 それを聞くと、熊は欲しくてたまらない。

「兎どな、兎どな。俺もこの通り火傷や突き傷で悩んでいるが、少し譲ってたもれじゃ」

「それでは少し分けてやるべい」

 兎はそう言って熊の背後に回り、蓼味噌を傷口へ塗りつけてやった。すると塩気がだんだん傷へ沁み込んで、痛くてたまらなくなってきたが、その時には兎はもう逃げて姿が消えていた。

 熊は口惜しがりながら、泣く泣く川べりへ下りて体を洗い、蓼味噌を流した。

 それからうんうん唸って山を越えていくと、また兎が一人で木を伐ったり板にいたりして忙しく働いているのに出くわした。熊はやっとそこに辿り着いてなじった。

「兎どな、兎どな。先程はひどい目に遭った。おかげで体はこんなに腫れあがった。どうしてくれる」

「蓼山の兎は蓼山の兎。杉山の兎は杉山の兎。俺が何知るべさ」

 兎はこううそぶいた。熊は、兎の言うことも道理だと考えた。

「ときに兎どな。杉板を挽いて何に使う気かな」

「杉山の兎は、この板で舟をぐのさ。そうして川の中サ乗り出して、うんと魚を獲るべあ」

「成る程、それは面白そうだ。兎どな、兎どな。この俺もせてたもれじゃ」

 熊はそう言って、二人で舟を作った。二人で相談して、兎は白いから白い杉板で舟を接ぎ、熊は黒いから黒い土舟を作ることにした。舟を作り上げると、二人は川へ乗り出した。

 熊の黒舟は土で作った船だからともすれば壊れそうだったが、そこへ兎が自分の板舟をわざと突き当てるので、だんだん熊の舟は壊れて沈み始めた。熊は困って「兎どな、兎どな。助けてたもれじゃ」と叫んだ。兎が「よしよし、助けに行くよ」と言っている間に、土舟は崩れて、熊はざんぶり水の中に落ちてしまった。兎は助けるふりをして、竿を突き出して、

「それ熊どな、あがっとらなじゃ。それ熊どな、上っとらなじゃ」と言いながら深い淵に突きやって、とうとう殺してしまった。

 

 それから兎は熊を引きずりあげ、その近所の家に行って鍋を借りて、熊汁を煮て食べることにした。

 その家では大人たちは畑に行き、子供たちだけが留守番をしていた。兎は子供たちと一緒に熊汁を作って食べ、肉はみんな食べてしまって、骨と頭ばかり残しておいた。

童共わらさど、童共、とどだの、あっぱだの帰って来たら、この鉤をガン叩いてぐるりと廻り、この頭の骨をがりっと齧れと言え。俺は後の林で寝ているから、黙っているんだぞ」と言って、兎は出て行った。

 親たちは間もなく畑から戻って来た。子供たちは、兎が言い置いた通りを親たちに言った。親たちは言われた通りにして廻りながら熊の頭の骨を齧っているうちに、歯がみんな欠けてしまった。

「あの兎の畜生に騙されて、歯無しになってしまった」

 親たちはひどく怒って、「この童共わらさど、兎はどこにいる」と問い詰めた。問い詰められて、子供たちは口止めされていたことを教えた。兎は後の山で寝ていると。

 親たちはそこにあった釜まっか(釜を掛けるための棒のことらしい)を持って走りだし、子供が言った場所に寝ている兎を見つけた。それを釜まっかで突きのめし、

「この腐れ兎のおかげで、歯は一本も無いように欠いでしまった。憎い畜生だ。殺してやるから、枕元にある刀を持ってこい」と、子供たちに言いつけた。

 子供たちは取りに走ったが、「枕を持ってこい」と言われたのだと思って急いでそれを取って来た。

「この馬鹿わらし! 枕ではない、枕元の刀と言ったけぁな。分からなかったら俎板さいばんの上から包丁を持ってこい!」

 すると子供たちは俎板を持って走ってきた。

「なんて馬鹿な童だべ。そんだらこのまっかで、兎を逃がさないよう押さえておれ」

 親たちはそう言って、自分で出刃包丁を取りに走って行った。

 その間に、兎は自分を取り押さえている子供たちにこう言った。

童共わらさど、童共。汝のあっぱの金玉どのぐらいあるね」

 子供たちは「このぐらい」だと言って片手で示してみせた。

「それじゃ分かんないよ。両手でやってみろよ」

 そこで子供が両手で「このぐらい大きい」とやってみせると、それで力が緩んだので兎は逃げ出した。

 そこへ親たちが帰って来た。兎が逃げていくので、持っていた包丁を投げつけた。すると、ちょうど兎の尻尾に当たって尾が切れた。この時から兎の尾は無くなったという話。

 どっとはらい。



参考文献
『こぶとり爺さん・かちかち山 ―日本の昔ばなし(T)―』 関敬吾編 岩波版ほるぷ図書館文庫 1956.
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950.

※「カチカチ山(B型)」の結末に、兎が子供が留守番している家へ行って狸汁を作るエピソードが付加されているもの。

 冒頭の薪取りは、「小屋を建てるために萱を刈りに行った」と語られることもある。

 

 鉤をガンと叩いて廻ってがりっと齧れという指示が謎。親たちが言われた通り、歯がみんな欠けるまでそれを繰り返したのはもっと謎。

「汝の母の金玉」というのは辻褄が合わない。実際、多くのテキストでは「母の頭」と修正されているし、あるいは「父の金玉」とすべきだろう。「父の頭」と語られる例もある。しかし不条理具合が面白かったのでそのままにした。

 

 兎は留守番の子供のところに来て熊汁(鹿汁)を作る。帰宅した大人が怒る理由は類話によってさまざまである。



雉と狐の寄合酒  日本 青森県三戸郡中澤村

 雉と狐が寄合(共同)で酒造りをした。ところが、それをウサギが飲んでいるではないか。

 怒った狐はその場でウサギを捕らえ、雉に「包丁を持ってこい」と言いつけた。ところが雉は聞きちがえて、へらを持ってきた。「箆じゃない、包丁だ」と言うと、今度は杓子を持って来る。狐は業を煮やして自分で包丁を取りに行った。

 その間は雉がウサギを捕らえていたが、ウサギが「お前の親父の金玉はどのくらいの大きさがある?」と尋ねてきた。雉は「これだけある」と、押さえた手を放して輪を作ってみせた。たちまち兎は逃げ出した。

 そこに、狐が包丁を持って戻ってきた。咄嗟に包丁を投げつけるとウサギの尾に当たって断ち切られた。

 これ以来、ウサギの尻尾は生えなくなったということだ。



参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950.

※ほぼ採取例がない。「カチカチ山(D型)」の結末部分が脱落して語られたもののようにも思えるが、海外に目を転じるとそうとも言えない感がある。

水の踊り  南アフリカ

 あるとき大変な旱魃が起こり、あらゆる川や泉の水が干上がった。獣たちは集会を開いて、干上がった川床で踊って地を踏み鳴らし、それによって水を湧き出させようということで話がまとまった。

 ところが、ウサギだけはこの案を馬鹿にして踊らなかった。

 他の獣たちは一生懸命踊って、ついに水を湧き出させた。そして踊らなかったウサギには水を分けないことにした。けれどもウサギはこれも馬鹿にして、夜に行ってたっぷり水を盗んだ。あくる朝、ウサギの足跡を見つけて獣たちが騒然としていると、ウサギは現れて彼らを嘲った。

 獣たちはもう一度集会を開き、どうすればあの狡賢いウサギを捕らえられるか相談した。なかなか案が出ない中、年取った亀が進み出てきて「私がやろう」と言った。

 獣たちは年取った亀の指示通りに、彼の甲羅に蜜蝋を塗りつけてやった。亀は川辺に行くと、手足を引っ込めて石のふりをしていた。

 夜になって再び水を盗みに来たウサギは、「これは気がきいてるじゃないか」と石の上に左足を乗せた。するとそれはくっついて取れなくなった。亀が頭を出したので策略に気付いたウサギは、右の前足で亀を殴ったが、これもくっついて取れなくなった。残った足で亀を踏み潰そうとしたがこれもくっついた。頭を金槌代わりに、尻尾を鞭代わりにして攻撃しようとしたが、これもくっついた。

 全く動けなくなったウサギを甲羅にくっつけて、亀はゆっくりとみんなのところに運んで行った。

 さあ、この悪徳ウサギは死刑に決まっているが、どんな方法がいいだろうかと獣たちは話し合った。しかしなかなかいい案が出ない。ついにウサギ自身に「どんな方法がいいか?」と尋ねた。

「みっともない死に方だけはさせないでくれよ。たとえば、僕の尻尾を掴んで岩に頭をぶつけるとかね。それだけは勘弁してくれよ」
「よーし、お前の殺し方が決まったぞ。その方法で殺してやる!」

 ライオンがウサギの尾を掴み、岩にぶつけようとブンブンと振り回した。するとスポーンと中身がすっぽ抜けて、ライオンの手にはウサギの皮しか残っておらず、赤剥け兎はまんまと逃げ延びたということだ。


参考文献
「水の踊り」、または「ウサギの勝ち」/『イーグルあれこれ雑記』(Web)

※ウサギの皮は本当に簡単に剥ける。暴れる野兎を捕まえただけでペロ〜ンだ。ギャッと思わされる。なので、この結末は大納得である。日本神話の「因幡の白うさぎ」ではウサギがワニザメから逃げる際に皮を剥かれたのは「失敗」として語られているが、こちらでは「成功」である。

 亀の甲羅の蜜蝋にウサギがくっついて捕らえられるくだりは、日本の「カチカチ山」で狸がトリモチを塗った石にくっついて捕らえられる、あるいは中国民話で畑を荒らすウサギが岩に塗った樹脂で捕らえられるモチーフと対応している。亀を殴ろうと暴れてとうとう身動きならないほどくっついてしまうのは《タール人形》と呼ばれるモチーフで、ジョーエル・チャンドラー・ハリスの『リーマスじいや』の話中話でよく知られている。このモチーフは中国やインドにもある。

 ナイジェリアのヨルバ族の類話では、以下のようになる。(『アフリカの神話』 ジェフリー・パリンダー著、松田幸雄訳 青土社 1991.)

 大旱魃が起き、動物たちはそれぞれ自分の耳の端を切り取って脂をとり、それを井戸を掘る鍬を買う費用にすることに決めた。しかし野兎だけは隠れていて参加しなかった。他の動物たちが井戸を完成させたとき、野兎がひょうたんを叩きながら近づいてきた。その音があまりに大きかったので動物たちは恐れて逃げ去り、野兎は腹いっぱい井戸の水を飲んで、それどころか体を洗って水を汚して立ち去った。

 兎が去った後で騙されたことに気付いた動物たちは、魅力的な女の子の像を作ってトリモチで覆って置いておいた。野兎が触ったところ取れなくなり、蹴ろうとしてくっつき、身動きできなくなって捕らえられた。

 野兎は動物たちに散々叩きのめされてから追放された。そのため、今でも野兎は草原に住み、その耳は他のどの動物よりも長い。

 

 要は、

  1. 獣たちが協力して(水/酒)を得る
  2. 協力していないウサギがそれを盗む
  3. 獣たちはウサギを捕らえて殺そうとするが、ウサギは知略を用いて逃げ去る

 という話である。ただ、日本版には「ツッコミ役の敵対者A(大人/狐)」と「ボケ役の敵対者B(子供/雉)」という新要素が加わっており、ボケ役のボケ倒しが物語に新たな面白みを加えている。


参考 --> [ずるがしこいウサギ




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