注意!

 

# 25 存在を賭けて

脚本:面出明美/コンテ:こだま兼嗣/演出:佐藤照雄/作画監督:杉本幸子、前澤弘美

 最終回一話前。多くの人が待っていたのだろう、ルークとアッシュの一騎打ちが描かれた回です。

 

 原作では、

全員でリグレット戦ルークがはぐれてアッシュと一騎打ち全員でシンク戦

と連続して中ボスキャラとの決戦が行われますが、それを

ルークがはぐれてアッシュと一騎打ち。
同時刻、仲間たちはリグレット&シンク&神託の盾オラクル兵たちと戦闘

という形にまとめ直してありました。

 

 原作の流れを追ってはいますが、全体にオリジナルの味付けになっています。別段問題なく、当たり前にアニメ化されている感じなんですが、二箇所だけ大〜いに不満に感じた点がありました。

 きっと、他の方は殆ど誰も不満に感じない点なのでしょう。ただ、私自身のキャラ解釈が合致しなかった…ってことなんだと思います。

 

 以下は重箱の隅ツッコミです。割としょーもないツッコミばかりしています。それでも大丈夫な方だけどうぞ。





 アバンは、エルドラントの砲台に突入して中破したアルビオール3号機の操縦席から。操縦席に座ったまま気を失っていたギンジが呻きつつ目を開けると、アッシュが覗き込んでいます。ギンジが正気づいたのを確認すると、「ご苦労だった。お前は脱出しろ」と言い残して素早く出て行ってしまう。

 次いで、ルークたちの乗るアルビオール2号機が着陸してきます。すぐに機室のドアが開き、ルーク、ガイ、ティアと続いて仲間たちがデッキに駆け出して、入口の脇に停止している3号機を視認している様子。

 

 …で。この先の展開と言うかカメラワークが、少し変でした。

 ルークたちが3号機の様子を見てましたから、すぐにアッシュやギンジの無事を確認しに行くのかと思うじゃないですか。ところが次のカットになると、ルークたちは何事もなかったかのようにゆっくりエルドラントの入口へ向かっていて、その横方向から怪我をしたギンジがよろめき出てくる。ノエルが気付いて、驚いて駆け寄ることになっていました。

 えええ? シーンが繋がってない感じです。

 

 これは、原作とは状況を変えていたのに、ギンジを見つけるところだけ原作寄りにしてしまったために生じた齟齬かと思います。

 原作ルークたちは、エルドラント入口前に降りた時まで、3号機がそこに突入していたことを知りませんでした。ですからエルドラント入口へまっすぐ向かっていて、入口脇に3号機を発見。驚いて見ていると操縦士(ギンシorアストン)がよろめき出てきて、ノエルが駆け寄る展開になります。

 

 ここでかなり長く、ギンジにアニメオリジナル台詞を喋らせていました。恐らく、原作のアストンバージョンの会話を下敷きにしていると思うのですが……大いに納得できませんでした。不満点その一です。

(原作・メインシナリオ)
#エルドラント入口への階段を上りかけていたルーク、入口脇に停止している3号機に気付く
ルーク「あれ、アストンさんのアルビオールだろ!?」
ガイ「そういえば三号機はアッシュが乗り回していたな」
#誰かが右肩を押さえながらフラフラと歩み出てくる
ナタリア「アッシュ……いえ、あれは!」
#ノエルが駆け寄っていく。その後ろからナタリア、ルーク、ジェイドと続く

※操縦士がギンジの場合
ノエル「お兄さん!? あの対空砲火をくぐり抜けたの!」
ギンジ「危険だがそうするよりなかった。迎撃装置の死角から飛び込んでアルビオールの船体を装置にぶつけたんだ。それしかあの対空砲火を無効化する方法がなかった」
#ギンジ、フラリとノエルの腕の中に倒れ込む
ジェイド「無茶をする……」
#ルーク、気遣わしげに
ルーク「おい、大丈夫か」
ギンジ「……ええ。おいらは平気です。エルドラント落下でちょっと体を打っただけですから」
ノエル「兄のことは私にお任せ下さい。皆さんはエルドラントへ」

※操縦士がアストンの場合(ギンジ死亡ルート)
ノエル「アストンおじいちゃん!? いつの間に!?」
アストン「アッシュの奴が、ここに突っ込むと言うんでな。こんな対空砲火をすり抜けられるのは、ギンジ亡き今 わしかノエルだけじゃ。ついでにアルビオールをぶつけて迎撃装置を一つ潰してやったわい……」
ノエル「それでアストンおじいちゃんが? もう、無茶ばかりして!」
#アストン、フラリとノエルの腕の中に倒れ込む
ルーク「おい、大丈夫か」
アストン「……わしのことはいい。それよりアッシュを追いかけろ。一人で突っ走りおって……。全くイエモンに良く似とるよ」
ノエル「アストンおじいちゃんのことは私にお任せ下さい。皆さんはエルドラントへ」

※以下共通
ジェイド「ルーク。行きましょう」
ルーク「……わかった。ノエルありがとう。みんな、行くぞ!」


(原作・フェイスチャット『アッシュの戦い』)
ナタリア「アッシュはエルドラントへ向かったのでしょうか」
ルーク「多分な」
ナタリア「では漆黒の翼は……」
アニス「あ。そっか。あいつら、アッシュといつも一緒だったモンね」
ジェイド「どうでしょう。さすがに置いて来たのではありませんか? エルドラントにはヴァンがいます。危険ですから」
ナタリア「……そうですか。そうなのだとしたらアッシュは一人ですわね」
ルーク「追いついて、首根っこひっつかまえて、一緒に戦おう」
ナタリア「ルーク……。ええ、そうですわね。彼は私たちの仲間ですもの」

(アニメ版)
#エルドラントの入口へ向かってゾロゾロ歩いているルークたち。
#横の方からギンジが右肩を押さえてヨロヨロ歩いてくる。
#ルークたちと一緒に歩いていたノエルがそれに気づく

ノエル「……? っ! お兄さん!」
#駆け寄っていく。ルークやガイもそれに続く。
#フラリと倒れた兄を、しゃがんで抱きとめたノエル、必死に呼びかける

ノエル「お兄さん、しっかり!」
#顔を上げて身を起こすギンジ
ギンジ「……ノエル」
#ルークたちが駆け付ける
ルーク「ギンジ! アッシュは? ……一緒じゃないのか?」
ギンジ(ルークを見上げて、必死な瞳で)アッシュさんを、止めてください!」
ルーク「まさか、一人で乗り込んだのか!」
ティア「無茶だわ!」
#息をのみ、不安そうに瞳を揺らすナタリア
ナタリア「――アッシュ!」
ギンジ(俯いて)アッシュさん、このところ思い詰めた様子で。(ルークを見上げ)ここへ来るのも自分だけでいいと。ノワールさんたちを降ろして。
 おいらは、アルビオールの操縦を任せるわけにはいかないって、無理についてきたんです」
ジェイド「……」
#顎に手を当て、何事か深刻に考え込んでいるジェイド。←アッシュが生き急いでいる理由は…とか、考えてるんでしょうね。
アニス「アッシュって意外と突っ走るタイプだよねぇ」
#ルーク、ナタリアに向かって
ルーク「とにかく、追わないと!」
ナタリア「ええ!」
#全員で走り出す。ガイは途中で立ち止まって振りかえり、
ガイ「ノエル。キミはギンジを。危険だと思ったら迷わず脱出してくれ」←これは原作ラジエイトゲート初回着陸時から採ってますね。
ノエル「はい。皆さんお気をつけて」
ギンジ「頼みます」

 みなさんはどう思いましたか? アニメギンジが、「アッシュさんを、止めてください!」と言うこと。私は、何言ってんの!? と思いました。

 原作アストンのように、アッシュが一人で突っ走っているから追ってたすけてやってくれと言うなら問題ありません。が。「止めてくれ」って。なんじゃそりゃ。

 アンタは一体何のつもりでここまで来て、決死の突入を行ったんだ。

 非常に苛立ちました。レムの塔の時は、漆黒の翼がアッシュを止めてくれと頼んできましたし、ルークたちだってそのつもりで追いかけてましたけど。今回は状況が違うと思う。

 アッシュもルークも、そして仲間たちも。全員が、《生き延びるため》《自分自身の存在・信念を証明するため》に、ここにやって来たんですよ。戦わなければならない正念場です。今更止めてどーすんですかっ!

 

 原作のギンジやアストンは、決着をつけようとするアッシュの気持ちを認めて、自ら操縦士として協力し、決死の突入を成功させたのだと思っていました。操縦士としての戦いを見事に成し遂げたのだと。

 が。アニメのギンジは何ですか。

 自棄になってるっぽいアッシュを放っておけないから仕方なく付き合って、彼が望むから嫌々突入したけど、本当は一歩もエルドラントに入らせたくなかったと言うんですか?

 たまたま後から来たルークたちに「止めてください!」と責任を押しつけるくらいなら、アッシュを乗せたまま世界の果てにでも逃げるか、アルビオール壊して飛行不能にしてれば? そして全責任を自分で負え。

 敵の拠点に踏み込むのは、誰でも不安ですよ。アッシュの様子がおかしければ、そりゃ心配でしょうよ。でもね。彼の望みを認めてエルドラント突入する決意を固めたなら、今更止めるな! ルークたちにはアッシュへの協力と支援を願えばいいじゃないですか。

 原作でギンジやアストンがエルドラント突入成功させたのを見た時には、なんて男気のあるカッコいい人なのか、アッシュにはこんなにも頼もしい仲間がいたんだと感銘を受けたのに。アニメのギンジはヒヨヒヨナヨナヨ優柔不断。放っとけないから厭だけど仕方なく突入しましたアッシュさんを止めてくださーい。何なんだ。むかむかむか。

 

 Aパート。

 原作のエルドラントは、白亜の神殿を思わせてとにかく美しかったですが、アニメ版では入った直後の通路が地下道みたいにジメっぽくて暗かったです。全員で駆け込んだのに、何故か他の仲間たちが消えてルークだけになり、神託の盾オラクル兵の死体がゴロゴロ転がってる中を駆けていく。明るいホールに出ると、そこでアッシュが神託の盾兵を斬殺しています。ルークは駆け寄り、一人では危険だから一緒に行こうと呼びかける。

 ……ギンジは「止めてください」と頼んでたけど、ルークには止める気はないみたいです。原作どおり、合流して一緒に闘おうとしてる。

 

 原作アッシュは「エルドラントで決着をつける」と決闘の予告をしていたわけですが、アニメの彼はルークとケンカ別れしただけ。誘いを激しく撥ね退けます。――と。突然、床に譜陣が浮かんで円い穴が開き、二人は悲鳴を上げながら落ちて行っちゃいましたとさ。

 コ、コントみたい……(震笑)。いや、原作の方がもっとコントっぽい落ち方でしたが。

 落ちる瞬間に仲間たちが追い付いてきて、慌てて駆け寄りましたが、追って飛びこもうとしたガイの目前で穴は消えてしまいました。悔しがるガイと、それぞれの想い人の名を呼ぶティアとナタリア。そして今更「やはり、罠ですか」と、したり顔してるジェイドです。「やはり」なんて言うなら、エルドラント突入前に注意しなよ〜。(^_^;)

 

 原作では、床の中央に円い模様の描いてあるホールをルークたちが歩いていると、突然、模様の内側の床が消滅。ガイ、ティア、ジェイドも穴に落ちそうになったのですが、それぞれ素早くバックステップして回避。ルークだけが間抜けに落下。アニメ版とは違って穴は消えなかったので、ガイが追って飛び込もうとしましたが、ジェイドが強く止め、下に安全な出入り口があるはずだと言って、全員で探しに行きました。

 対してアニメ版では、ルークを探しには行けません。直後に兵士たちを引き連れたリグレットとシンクが現れて戦闘になったからです。

 ……が。実を言うと、戦闘が終わってもルークたちを探そうとした様子がなく、全員で普通に先に進んで、そこにルークが追い付いてくる形になってました(笑)。再構成の都合ですね。

 

 ここから、シンク戦、リグレット戦、アッシュ戦が同時に起こり、シーンが交互に切り替わって進みます。AパートからBパートまでまたいで、三つの戦闘が同時進行で描かれました。

 

 まずはシンク戦から見てみましょう。

 アニスとシンクのエピソードが強化されていました。そして何故か、ひたすらガイがアニスを庇う(笑)。『ファンダム Vol.2』のガイのタイミングバトルでは、キャラ配置の都合上、アニスがヒロイン役(攻撃してはならない対象)に設定されてたけど。ガイのヒロインはアニスなのかしら〜(笑)。そういえばタタル渓谷で崖から落ちかけたのも助けたしね。

#現れたシンクを見て、ぽつりと呟くアニス
アニス「やっぱり、生きてたんだ……」←原作ケセドニアでのルークの台詞をアニスに変更?
#シンク、意地悪く笑って
シンク「悪いね。イオン様が死んで、出来そこないのレプリカが生き残って」
アニス「え?」
#アニス目を見開き、苦しそうに顔を伏せる。
#ガイが歩み出て、庇うようにアニスの前に左手を伸ばし、リグレットたちを睨みつける

ガイ「あんたたちが直接出てくるってことは、やっぱりヴァンもここにいるんだな」

(中略。ティアとリグレットが会話し、決裂。戦闘開始)

シンク「せめて、イオン様と同じ顔に倒されれば嬉しいだろう? (皮肉に嗤い)お前がイオンを殺したんだから」
アニス「――っ!」
#ショックを受けた様子のアニス。未だトクナガも出していない彼女めがけ、一度に四本のくないを投げ放つシンク。
#が、ガイが素早く飛び込んで剣で全て弾く。背にアニスを庇いながらニヤリと笑い

ガイ「俺を忘れてもらっちゃ困るな」
シンク「チッ」
#ガイの背後で、俯いて体を震わせ、言葉を落とすアニス
アニス「……そうだよ。私だよ」
ガイ「――アニス」
#ハッとして、気遣わしげにアニスを見るガイ
アニス「私がイオン様を……」
#俯いたまま呟く。
#が、直後に涙を振り飛ばしながらバッと顔を上げ、トクナガを取り出すと

アニス「だから! イオン様が願った、預言スコアに頼らない、レプリカも安心して暮らせる世界を」
#トクナガを巨大化させる。ガイは走ってアニスの前から退く
アニス「――私が作る!」
#トクナガの背に乗り、シンクめがけ一気に跳び出していくアニス。
#トクナガのパンチ。バックステップして避けたシンクの代わりに床が砕ける

 シンクの、アニスへの接し方が原作とは異なっています。

 原作のシンクはアニスに向かって「お前がイオンを殺した」とは全く言いません。ただ、イオンの物真似をしてみせたり、ボクと戦うということはイオンと戦うということさと嘲ったりして、《アニスが殺してしまったイオン》と自分を、わざと重ねて見せることで、アニスを傷つけていました。

 シンクのそんな態度に傷つけられるアニスは、シンクとイオンを重ねて見てしまっています。一方で、二人が別個の存在なのだと頭では認識していて、シンクがイオンの影を気取ることに憤ります。

 人によっては、アニスやナタリアが自分の大切な人と《そっくりさん》を心情的に重ねてしまうことを激しく批判し、愚劣な行為だと一刀両断することがあるかもしれません。ですが、外見が全く同じ人物に対し、どこかに繋がりを探してしまうのは、人間の心理として不可避ではないかと思います。人間は機械のように理屈だけで行動できない。少なくとも私だったら、そうできる自信は無いなぁと思います。

 

 以降のシンクとアニス、加えてガイの会話は概ね原作どおりですが、ルークがいないので、彼の台詞をナタリアが喋っていました。

 この辺のシンクの演技は、原作の声優さんの方がテンションの高低がくっきりしていて好きかもです。

 ルークがいないので、シンクの台詞から「おまえみたいに代用品ですらない。ただ肉塊として生まれただけだ。ばかばかしい。」という部分がカット。

 また、自分が空っぽだと言った後の「だが構わない。誰だってよかったんだ。預言スコアを……第七音素セブンスフォニムを消し去ってくれるならな!」もカットで、代わりに、アニスが息を呑んで悲しげに瞳を揺らし、ナタリアとガイも痛々しげにシンクを見つめることになっていました。

 その後、

アニス(トクナガ)とシンクの激しい格闘(シンクの激しい攻撃の中、アニスはとうとう両手で頭を抱えて目をつぶってしまう。でもトクナガは自律型ロボットじゃないから、アニスが見て操らないと戦えません。)
殴り負け、蹴りで床に叩き落とされたアニスの危機に、ガイが助太刀(斬りかかる時、わざわざ「こっちだ!」とシンクに呼びかけて注意を喚起。アニスが追撃されないよーに配慮したのかな。)
ガイとシンクの激しい戦闘→
転がる兵士の死骸に足を取られ転びかけたガイの危機に、ナタリアが助太刀→
再びアニスが飛び込んでシンクと格闘

と戦闘が続いていきます。なんかループです。

 第7話と同じく、シンクの拳や足刀に緑色の電光がまとわりついて、ヒットするたびにバチバチッと光る感じに演出されていました。カッコいー!

 

 シンクにトドメを刺したのはガイでした。アニスにさせるのはあまりに過酷だからでしょうか。

 死ぬ前にシンクが壊れたように笑う点は、原作のシンク敗戦ボイスそのままなんですが、その後に消えながら言う台詞が、原作とは全く違っていました。

(原作)
「……ヴァン……ローレライを……消滅……」

(アニメ版)
「これでやっと終わる……。このくだらない世界から、解放されるんだ。……ふふふふふふ、あははははは」

 原作版は、最期までローレライ(世界)に憎悪を抱き、その消滅に執念を燃やしている感じですが、アニメ版では死ぬことを喜んでいて、その他のことはどうでもいいみたいな感じです。

 

 シンクが《死》を解放と考え、死に際に喜びを感じていたという解釈は、ファミ通文庫小説版外伝『真白しろ未来あした』と同じです。この小説では、シンクはわざとルークの攻撃を受けて死にます。要は他人の手を借りた自殺でした。ずっと死にたかったのだそうです。

 しかもルーク自身、「試してみようよ。アンタたちと空っぽのボク、世界がどっちを生かそうとしてるのかさぁ!」というシンクの言葉を聞いて、世界がどちらを生かそうとしているか答えをシンクが知らないはずがない、自分もアッシュとの間で同じことに悩んできたレプリカなのだから、と思っています。つまりこの小説はシンクの言う「どっち」を、オリジナルとレプリカの対比だと解釈していて、しかも《オリジナルにしか生きる資格はないと、ルークが結論している》と語っている訳です。

 私はそう思いません。

 シンクが言った「どっち」は、単純に《シンクとルークたち》のことだと思いますし、ルークが《世界はオリジナルを生かすに決まっている》なんて結論していたとも思わない。……厳密に言えば、たとえ世界に選ばれなかったとしても、生きたいなら生きていい。それは誰にも否定できない。と思っていたと思います。

 

 原作の《ルークの日記》を参照すると、ルークはシンクの死に関して

シンクは本当に空っぽだったんだろうか。空っぽでいたいと思っただけなんじゃないのかな。もうそれを、あいつに聞くことはできないけど、俺はそう思った。

と書いています。

 シンクは自分が劣化レプリカである現実を乗り越えられなかった。勝手な都合で生み出され棄てられ拾われて利用されているばかりの、お情けで息をしている、価値のないくだらない自分。でも世界だってくだらない、価値がないじゃないか。そう思うことで自分の矜持を保ち、生まれたこと自体を否定して、自分を変える努力をしなかった。

 生まれてきて何も得ることがなかった、ボクは空っぽだと、シンクはアニスに言いましたが。それは彼自身が得ようとしなかったから……空っぽでいたかったからじゃないかと、もがいて変わって自分を満たしてきたルークは感じた…んじゃないかな。

#《ルークの日記》を参照するに、レプリカ編冒頭の、自己存在の価値を見失っていた時期の原作ルークは、レプリカの自分は空っぽだと思って不安がっていました。けれど今、彼はそう思っていません。

 

 シンクが本当に、ただ死にたいのでしかなかったのなら、もっと早く独りで死んでよかった。そうしなかったのは彼の弱さであり、反面で、彼の心が完全には空っぽではなかった証拠ではとも思います。シンクは心のどこかで生きたいと思っていたし、ヴァン(養父)に必要とされたいとも思っていた。でも現実の自分は廃棄品のリサイクルで、そのギャップに耐えきれない。だから自分もろとも、自分が欲しかった世界全てが消えてしまえばいいと思っていた。

 全てが同時に死に絶える。それは、考えようによっては、とても幸福な妄想です。不安も未練も感じる必要がなくなる。自分を変えなくても大丈夫。みんな一緒なのだから。

 シンクが空っぽでいたがったのは、憎む方が楽だったからなのかなとも思います。何かを得てしまったら、それを認めてしまったら、多分、世界を…生まれたことを否定できなくなる。そうしたら逃げ道がなくなってしまうから、とか。

 

 シンクが音素フォニム乖離していくのを見て、アニスは思わず駆け寄って抱きしめようとします。が、一歩間に合わない。腕で包む前に消えてしまった輝きを哀しげに見つめて、「……本当に、あんたには何もなかったの?」と言っていました。ガイはその背を痛ましげに見つめ、無言で剣を鞘に納める。

 これはアニメオリジナルエピソード。何故なのか今回は本当に、ガイとアニスが強く結びつけられていたなぁ。

 ふと思いましたが、もしガイが裏切ってルークを殺していたなら、アニスと同じように、その後ずっと後悔に苛まされ、引きずることになったんでしょうか。

 

 アニスがシンクの哀しい死に心を痛める様子は原作にもありますが、イオンの死とシンクの死を重ねる気持ちの方が強く出ている。半分はイオンの死を悼んでいます。対してアニメ版はシンクのことだけを言うので、ストレートに彼の死を悼める感じ。それに、消えゆくシンクを咄嗟に抱き締めようとしたのは、この幼い少女から胸広き母性すら感じられて感動的でした。この辺りのアニスの描き方は、原作より好きです。

 

 次にリグレット戦。

 こちらの戦闘前会話は、幾分簡略化されているものの、大体は原作のままです。

 ナタリアとジェイドは神託の盾オラクル兵たちを攻撃。譜も完全に唱えてジェイドが放った炎の譜術・イラプションに怯えて、ミュウは石像の立っている高い台の上に飛び逃げる。着地の際、片足で着地して転びそうになって両手をバタバタしてバランスを取っていて、無駄に動きが凝っていました(笑)。

 リグレットが二挺の譜銃から撃ち放つ銃弾の雨の中を駆け抜け、杖で殴りかかるティア。譜銃を交差させて受け止めたリグレットは、「迷いによって出来ていた隙が無くなったな。それでいい」と満足げに笑う。教官はどこまでも教官ですね。

 ティアがバックステップで離れると、タイミングを読んでいたかのようにジェイドが譜術・アイシクルレインを発動。でもリグレットは身軽に避けます。そしてオリジナル会話が挿入。

#バックステップして、譜術を放ったジェイドの隣に並ぶティア
ティア「大佐」
ジェイド「すみません。出来れば、勝負の邪魔はしたくないのですが」
リグレット死霊使いネクロマンサージェイド」
#ジェイドとティア、ハッとしてリグレットを見る
リグレット「あなたほどの者が、預言スコアに支配された世界をよしとするとは」
ジェイド「私個人としては、預言の破壊自体は賛成ですよ。ただやり方が――」
#背後からじりじりと間合いを詰めて斬りかかってこようとした神託の盾オラクル兵を、見もしないで片手の譜術で吹き飛ばすジェイド
ジェイド「気に入らない。私が開発したフォミクリーを、こんなことに使わせるわけにはいかないんですよ」

 この会話は、原作のヴァン最終戦、ルークとティアを戦闘チームから外してジェイドを操作キャラにした場合に発生する会話に近い。敵側がジェイドに軽く敬意を払い、ジェイドは自分の研究を利用されたからには責任を取ると返す。

 でも、なんか変です。根本的な理屈が歪んでるよーな…。

 リグレットが「あなたほどの者が、預言スコアに支配された世界をよしとするとは」と言い、ジェイドはそれ自体を否定しない。

 えぇえええ? ルークたちも預言から世界を解放しようとしてるんでしょ? つか、もう解放してる筈なのに。預言は既に全世界で禁止されてますよね?

 そう言えばアニメ版では、外殻大地降下後の預言禁止や不安がる民衆の様子を描きませんでしたが。まさか、ただの省略ではなくて、マジに全く禁止されず前のままだったってことなんですか!? そしてこの先も禁止の予定が立ってないってこと? そんな馬鹿な。

 ……まあ、ヴァンたちは、オリジナルを皆殺しにしてローレライを消滅させない限りは預言は消えないと考えていた訳ですから、それを阻むルークたちは「預言スコアに支配された世界をよしと」している、と考えたのだとこじつけられなくもないですが。

 でも。第23話で戦ったラルゴは、ルークに「俺たちは同じように預言から離れようとしてる! どうして殺し合わなきゃならないんだ!?」と言われて「結果は同じでも……違うのだァ!」と返してましたよね。原作どおりに。今回でも、アニスがオリジナル台詞で、「イオン様が願った、預言に頼らない、レプリカも安心して暮らせる世界を、私が作る」と言ってます。ルークたちもヴァンたちも、預言を廃しようとしている点は同じ。ただ、やり方が違うだけ。その前提を六神将たちも理解している筈。なのにどうして今更、リグレットに「預言スコアに支配された世界をよしとするとは」なんて、トンチンカンなことを言わせたんでしょうか。びみょーに釈然としなかったです。

 

 ジェイドの言葉に無言を返し、リグレットは譜銃を構えて円周を歩き、間合いを取り始めます。するとジェイドが目線と頷きで傍らのティアに合図を送る。無言でしたが、ティアは阿吽の呼吸で理解して、下がって間合いを取りながらタイミングを計り始めました。

 リグレットの銃弾を、ジェイドは譜術・ロックブレイクで床を隆起させ盾とすることで防ぐ。

 一方で、アニスやガイはシンクと激しく戦っています。

 その時、ティアが第一音素譜歌ナイトメアを詠う。

 その瞬間、不思議なことが起こりました。この譜歌は本来は誘眠の術のはず。しかし何故か、敵の全員が譜術・タイムストップをかけられたかのように、それぞれの動作の途中のまま停止したのです。(兵士なんか、無理な姿勢のまま空中停止してました。)

 次の瞬間、ナタリアが複数の矢を放って兵士たちを、ガイが剣でシンクを、ジェイドがやっと取り出した槍でリグレットを、貫き斬り裂いて戦いを終わらせたのでした。

 

 静と動のコントラストを際立たせた戦闘決着は、第6話、廃工場でアヴァドンを倒した時と、ちょっとだけ似てますね。

 

 リグレットにトドメを刺す役をジェイドにしたのは、単に、ティアの譜歌を利用した都合上でしょうが、個人的には、ティア自身にさせて欲しかったなぁ。

 

 リグレットの死に方が、ちょっとギャグっぽかったです。

 というのも、カッコよく片膝をついて、背筋を伸ばし、両腕をピンと伸ばして譜銃を構えて微動だにしないというピンシャンした姿勢で、かなり長時間、人形のように静止して長台詞を言うからです。ジェイドに斬られたはずですが傷は全くなく、血も一滴も出ていません。どこをやられたのかちっとも判りません。なのに、言うべきことをキビキビと語り終えると、バタッと倒れて死ぬのでした。

 少しも死ぬようなダメージを負っているように見えないし、苦しそうにすらしないので、お芝居にしか見えません。

 

 原作のリグレットは、戦闘終了後には両膝をガクリとついて、身は何とか起こしているものの、両腕はダラリと下げています。そんな瀕死の状態なのに、それでもよろよろと片腕を上げ、譜銃をティアに向ける。あくまで敵対の意志を見せる。その状態でティアに「おまえは一つだけ間違っている」と語りかけた後、バタリと床に倒れて、ヴァンへの末期の台詞を呟き、息絶えます。

 

 原作リグレットは、戦闘中に「我々とお前たちの未来は違う。我らは敵同士なのだ」と言い、ティアへの師弟愛をほの見せながらも、あくまで敵同士という筋を通して死にました。彼女が倒れた瞬間、原作ティアは駆け寄りかけますが、結局、手前で立ち止まる。死んでいくリグレットを、立ったまま少し離れた位置で見守り、彼女の死後は、傷付いた顔をしながらも決して涙を流さず、軍人としての筋を通すことで悲しみを乗り越えようとしていました。(サブイベントでリグレットの遺書を読んだ時は、仲間たちに席を外してもらって一人になってから「ごめんなさい、教官」と謝罪してましたが。)

 しかしアニメ版は全く違っていて、リグレットが倒れた瞬間、ティアは悲鳴のように「教官!」と叫んで駆け寄り、リグレットを腕の中に抱きとめました。リグレットはティアの腕の中で末期の台詞を言い、息絶える。ティアは師の亡骸を抱きしめると、ひとしきり嗚咽を漏らしていました。一応、顔を隠して涙は見せませんでしたが。で、やがて顔を上げたティアは冷徹な仮面を被っていて、「行きましょう」と凛々しく言う、と。

 

 個人的には、ここは原作の描き方の方が好きでした。

 原作だとルークが同席していて、ティアに「泣いたっていいんだぜ」と語りかけますが、彼女は「私は泣かないわ。泣いても何も変わらない。感情を律することができなければ……」と、決して弱音を吐きません。シェリダンの惨劇後、タルタロスで、泣くルークに向かって言ったのと同じ理屈。これがティアの信念。ですがルークが、自分はティアの事をあまり解っていないのかなと苦笑すると、小さく「……そんなことないわ」と呟きます。

 泣いていいよ、というルークの言葉に寄り掛かることは、今のティアにはできない。肩肘張ってないと崩れちゃって、先に進めないから。でも、(かつては冷血女なんて言ってたのに、今では)本心を解ってくれて、しかも弱さを認めてくれるようになったルークの言葉が、とても嬉しかったんでしょうね。

 ついでに言うと、この場面の《ルークの日記》には、とても重要なことが書いてある気がします。

教官を失ったティアは、傷ついた顔をしていたのに涙をこぼすことはなかった。凄い自制心だと思う。
 そういえば、俺は出会ってから一度も、ティアが泣いたところを見たことがない。もしかしたらティアは俺が死んだ時も泣かないのだろうか。泣かないような気がする。泣いて欲しい訳じゃないけど、ただ何となくそう思った。

 強さと引き換えに涙を差し出して、決して泣かないティア。子供の頃は泣いてばかりいたというのですから、軍人になってから己を律するようになったのだと思います。リグレットを殺した時も、ヴァンを殺した時も、彼女は哀しそうにしながらも涙をこぼさなかった。

 けれども。物語のラストシーン、帰ってきた《彼》と相対した時、ティアは大粒の涙をぽろぽろとこぼすのです。

 ルークは、他の大切な人が死んでも泣かなかったのだから、ティアは自分が死んでも泣かないのだろうと思っていました。(ルークは、自分がティアに特別な意味で想われていることを知りませんでした。)でも「泣いて欲しい訳じゃないけど」と書いてますので、逆に、少し泣いてほしかった、特別に悲しんでほしかったのかなとも思います。

 そして、《彼》を前にしてティアは泣いた。ルークの「泣いたっていいんだぜ」という許しに、今応えたかのように。

 ラストシーンのティアの涙には、こういう意味が籠もっているかと思います。でもアニメ版は取り扱ってくれなかったですね。ティアがラストまでは絶対に泣かなかったことを、視聴者に印象付けませんでした。ちょっと勿体ないかも…。

 

 さて。お待ちかねの(?)アッシュ戦です。

 アッシュと二人同時に落とし穴の罠に落ちちゃったルーク。原作には、落下先の部屋の扉が特殊で、二人のうちどちらか一人しか出られないという設定がありましたが、アニメ版ではカット。これはスッキリして嬉しかったです。

 

 戦闘前の会話は、部分的に原作を流用しているものの、似て非なるものになっていました。

(アニメ版)
#落とし穴から落下した部屋で、それぞれ、なんとか起き上がるルークとアッシュ。アッシュはローレライの剣を支えにしている
ルーク「ここは……一体」
#辺りを見回す二人
アッシュ「屑と同じ罠にかかるとはな」
ルーク「っ! みんなは!?」
アッシュ「戦力の分断が目的なら、あっちも手荒に歓迎されてるはずだ」
ルーク「! 早くここを出て、みんなを探そう!」
#アッシュ、持っていたローレライの剣を、勢いよくルークの眼前に突き付ける
ルーク「ア、アッシュ!?」
アッシュ「これが最後の機会だろう。今ここで、お前との決着をつける!」
ルーク「!? (両拳を握って)どうして、そんなことしなくちゃいけないんだ!」
アッシュ「証明するためだ」
ルーク「証明……?」
アッシュ「ヴァンから剣を学んだもの同士、どちらが強いか……。どちらが本物の『ルーク』なのか。存在をかけた勝負だ」
ルーク「アッシュ……」
アッシュ「あいつの――(顔を憎悪に歪めて)ヴァンの弟子は俺だ。俺だけだ! 俺は、あいつを尊敬していたんだ。預言スコアを否定したあいつの理想を俺も信じたかった。あいつの弟子であり続けたいって……」
ルーク「……」
#哀しそうに俯くルーク
アッシュ「だから、ヴァンを仕留めるのは俺だ!」
ルーク(アッシュを見て)……俺も師匠せんせいを尊敬してた。俺のことを解ってくれるのは、師匠だけだって。
 (再び俯き)でも、今俺は師匠を止めたい。レプリカだけの世界なんて、間違ってる。(ぐっと目を閉じて頭を振り、泣きそうな顔を上げて)俺みたいな思いをする奴は、もう作り出してはいけないんだ!」
アッシュ「だったら、俺を倒してヴァンの元に行くんだな!!」
#剣を構えるアッシュ。ルークも表情を険しくし、剣を抜く。
#激しく斬り結び始める二人

(原作)
#アッシュが扉を右足でガンガン蹴っている
アッシュ「くそ! 時間がねえ! もう……間に合わないってのか!」
#部屋の中ほどに、ルークがどさっと落ちてくる
アッシュ「おまえは……」
ルーク「アッシュ! おまえ、どうしてここに!」
#アッシュ、ルークに歩み寄りつつ
アッシュ「フン、こっちの台詞だ。……ファブレ家の遺伝子ってのは、余程間抜けらしいな」
#立ち止まって両腕を組み、苦々しく
アッシュ「レプリカまで揃って同じ罠にはまるとは……。胸くそ悪い」
ルーク「……そんな言い方するなよ!」
アッシュ「本当のことだろうが」
ルーク「ここを出る方法はないのか?」
#アッシュ無言で歩いていき、ルークの脇を通り抜けてホールの中央へ。
#そこには円が描かれており、円周から線が伸びて短い階段を通り、扉の合わせ目に繋がっている。
#アッシュ、片膝をつくと片手を円の中心に当て、音素フォニムを込める。線が光り、扉へ。扉が開くが、手を離すと閉じてしまう。
#アッシュ立ち上がり、両腕を組んで

アッシュ「……どちらか一人はここに残るって訳だ」
#ルーク、アッシュに歩み寄ると、無言で宝珠を差し出す。アッシュ、腕組みしたまま眉間の皴を深め
アッシュ「……何の真似だ」
ルーク「どちらか一人しかここを出られないなら、おまえが行くべきだ。ローレライの鍵で、ローレライを解放して……」
アッシュ「いい加減にしろ!! おまえは……俺を馬鹿にしてやがるのか!」
ルーク「そうじゃない。俺はレプリカで、超振動ではおまえに劣る。剣の腕が互角なら、他の部分で有利な奴が行くべきだろう」
#背を向け、数歩歩いて離れ
アッシュ「……ただの卑屈じゃなくなった分、余計にタチが悪いんだよ!」
ルーク(驚いたように)アッシュ……」
アッシュ「他の部分で有利だ? 何も知らないくせに、どうしてそう言える? おまえと俺、どちらが有利かなんてわからねぇだろうが!」
ルーク「だけど俺はどうせ……」
アッシュ「黙れ!」
#アッシュ、シャッと剣を抜いてルークに向ける
ルーク「アッシュ! 何を……」
アッシュ「どうせここの仕掛けは、どちらか一人だけしか出られない。だったら、より強い奴がヴァンをぶっ潰す! 超振動だとか、レプリカだとか、そんなことじゃねぇ。ヴァンから剣を学んだもの同士、どちらが強いか……。どちらが本物の『ルーク』なのか。存在をかけた勝負だ」
ルーク「どっちも本物だろ。俺とおまえは違うんだ!」
アッシュ「黙れ! 理屈じゃねぇんだよ……。
 過去も未来も奪われた俺の気持ちが、おまえにわかってたまるか! 俺には今しかないんだよ!」
#ルークの声に怒りがこもる
ルーク「……俺だって、今しかねぇよ」
#腰の剣をシャっと抜く。アッシュを睨んで
ルーク「奪われるだけの過去もない。それでも俺は俺であると決めたんだ。おまえがどう思ったとしても、俺はここにいる。それがおまえの言う強さに繋がるなら、俺は負けない」
#アッシュ、向けていた剣をぶんと振って
アッシュ「よく言った。そのへらず口、二度と利けないようにしてやるぜ。行くぞ! 劣化レプリカ!」

 みなさんはどう思いましたか? この会話の変更を。

 第23話の感想にも書きましたが、私は「ぎゃッ」と思いました。ルークが

「レプリカだけの世界なんて、間違ってる。俺みたいな思いをする奴は、もう作り出してはいけないんだ!」

というオリジナル台詞を言っていたからです。しかも半泣き。

 ここが第二にして最大の不満点です。

(アニメ版・続き)
#激しく斬り結び続けるルークとアッシュ。

#アッシュの脳裏に浮かぶ回想。
#誘拐後にダアトを脱走、 魔物と戦いながらバチカルの屋敷を目指した十歳の日

アッシュ(居場所も名前も奪われ、ただ懸命に生きるしかなかった)

#ルークの脳裏に浮かぶ回想。
#鳥籠の部屋から虚ろに外の景色を見ている長髪時代の姿

ルーク(自分が誰なのか分からないまま、閉じられた小さな世界で生きてきた)

#アッシュの回想。夕日の見える丘でナタリアと約束を交わした、七歳の日
アッシュ(ただ、俺の心を支えてくれたのは、《約束》)

#ルークの脳裏に浮かぶ回想。湧水洞に迎えに来てくれたガイ、あなたの記憶はあなただけのものと言ってくれたティアなどの、仲間たちの姿
ルーク(何も知らなかった俺を支えてくれたのは、仲間たち)

#二人、激しく刃を噛み合わせて睨み合う
アッシュ「お前に何が分かる! 俺の全てを奪ったお前に!」
ルーク「……確かにそうかもしれない。でも。(勢いよくアッシュの剣を跳ね返す)俺はお前の代わりなんかじゃない!」
#気圧されるアッシュ
アッシュ「!」
ルーク「俺は俺だぁーー!!」
#ルーク、駆けこんで打ち込む。アッシュの剣が弾かれてくるくると宙を飛び、床に突き立つ。
#驚愕しつつ、その剣を見るアッシュ。
#ルーク、剣をおろして、静かに

ルーク「俺とお前は違うんだ。アッシュ。お前にもあるように、俺には俺だけの、大切な記憶がある。それはもう、別の存在ってことなんだよ」

 アニメルークは「俺とお前は違うんだ」とアッシュに言う。でも同時に、レプリカとして生まれて辛い、レプリカなんて生まれない方がいいと半泣きで言っている。

 何かがおかしい。歪んでる気がします。

 

 そりゃあ。原作でも、この後アッシュが結果的にルークを庇って死に、ナタリアが我を失うほど悲しむ様子を目の当たりにすると、ルークは思わず「ナタリア……ごめん。あのとき俺が残れば……」と悔やみ、日記には「(やっと我を取り戻したナタリアは)俺の中にアッシュがいると言ってくれた。俺が死ねばよかったのにって責められても仕方がなかったのに。ごめんな、ナタリア。」とやや卑屈めに書いていましたよ。

 いくら「俺は俺だ」と悟ったところで、レプリカとして生まれた現実は覆らない。レプリカとして見られることへの痛みも完全に消えはしないでしょうし、オリジナルの人々、特に、アッシュやナタリアや両親のような近しい人々への罪悪感は無くなりはしないでしょう。ですから原作ルークだって、目の前で人間のレプリカが無為に大量生産されようとしていたら、やっぱり止めたと思います。

 でもですね。なんか違う。アッシュとの決闘前にレプリカ否定の台詞を入れるなんて、断然おかしいです。

 

 原作のこの時点のルークは、少なくとも、自分を憐れんではいませんでした。

 どうしてアニメルークは、己の存在を証明するって時に、《自分レプリカを否定しつつ憐れむ言葉》を言うんでしょうか。カッチョ悪いしチグハグです。

 レプリカとして生まれた現実は変えられない。そこを無視してはどこにも進めない。レプリカの自分を肯定しない限り、俺は俺だ、俺はレプリカだけどオリジナルのお前とは違う、お前の代わりなんかじゃない、なんて言えない筈でしょう?

 

 原作ルークは、アッシュに向かって言いました。

「それでも俺は俺であると決めたんだ。おまえがどう思ったとしても、俺はここにいる。それがおまえの言う強さに繋がるなら、俺は負けない」

 原作ルークは、アブソーブゲートでヴァンと戦った時にも「俺は俺だ」と言いました。けれどその一ヶ月後、ティアに向かって吐露しています。「頭では分かってるんだ、俺は俺だって。だけど俺って何だ?」「俺は俺を探さないといけない」と。原作ルークがここで「俺は俺であると決めた」と言うのは、その回答だと思うのです。俺って何だ? という問いかけへの。

 

 彼は自分がレプリカであることも命が尽きかけていることも知っています。この現実を覆せないことも知っている。それは苦しく哀しいこと。ですが、「それでも」と彼は言う。「俺は俺であると決めたんだ」と。

 原作ルークは、レプリカである自分を肯定したのだと思います。かつては自分がつまらない存在だと認めたくなかった。だから、そうじゃない自分を探したかった。そうして否定して否定して、否定し尽くした果てに。

 現実は覆らない。アッシュやヴァンや多くのオリジナルたちに人間として認められないだろうことも知っている。でも。「おまえがどう思ったとしても、俺はここにいる」。誰かに認められなければ生きられないなんてことはない。そう思えるようになった。自分自身でそう決めた。それは、別の視点で見れば現実の転換・変革。能力や生まれで劣ったとしても存在自体は劣らない。俺は確かにここに生きていて、生きたいと思っている。だから、自分の居場所を獲得することを、石にしがみついてでも、最期の瞬間まで生きることを諦めない。それを剣の力で示せと言うのなら。戦って勝ち取れというのなら。――「俺は負けない」!

 

 私は、ルークのこの台詞が大好きです。長かった《レプリカルークの物語》の終着点の一つ。重ねられてきたエピソードが解放され、カタルシスが生じる。長い旅路の果てに己を肯定したルークが堂々としていて、とてもカッコイイと思います。

 なのにアニメ版はこの台詞をカットして、己の可哀想さに半泣きになりつつここに至ってまで自己否定するという、物語全体を否定するかのよ―な泣き事台詞に入れ替えてのけたのでした。

 なんでじゃあああ!!(泣)

 

 本当に、なんでアッシュとの存在をかけた正念場に、こんな台詞を言わせるのか。

 細かい理屈を抜きにしても、男同士の決闘という場面で我が身を憐れんで半泣きなんて、チョーカッコ悪い。ルークはここまで情けない男でしたか?

 

 それにアッシュはむしろレプリカを作られた被害者。なのに、そんな彼に向かってレプリカの俺可哀想って泣き事を言うの? そもそもアッシュはレプリカを作ろうなんてしてないので、そんなこと言われても困るよね。

 いや。早く先に進んでヴァンと戦いたい、ヴァンはレプリカ世界を作ろうとしているからそれを阻止したい、だから邪魔するアッシュを倒す、ってコトなんでしょうが。それでもオカシイです。

 だってね。ヴァンがやろうとしてるのは、自分含むオリジナルの人類を全消滅させて、レプリカの人類と入れ替えるってことなんですよ。ヴァンのレプリカ世界にオリジナルは一人もいない。レプリカ人類が唯一無二のオリジナルになります。

 にもかかわらず、アニメルークは「俺みたいな思いをする奴は、もう作り出してはいけないんだ!(だからヴァンを止める)」と半泣きで言いました。

 レプリカ世界の人類が、もう存在しないオリジナルをおもんばかって、「我々はオリジナルを消して生きている。なんて罪深いんだ」と罪悪感に悶えたり、「我々はオリジナルより劣化している」と劣等感に苛まされたりするとでも思ってんのでしょうか?

 私の誤解かもしれませんが、アニメルークはヴァンの計画を正確に理解してないように思えました。脊髄反射のように、レプリカは生み出してはいけないモノだ、ヴァン師匠はレプリカ世界を作ろうとしてるから悪い人だ、としか考えてないみたいに見えます。

 もしそうなら。アニメルークはぞっとするほど馬鹿です。この土壇場に、自分が戦う敵の計画内容すら理解してないなんて。

 レプリカを作るから悪いんじゃない。預言を消そうとしてるから悪いんでもない。今の世界の人類(保護されているレプリカたち含む)の意思を無視して皆殺しにしようとしてるから悪いんでしょ。

 もしも私がヴァンだったら、こんなことを言うレプリカが決戦場にやってきたら、絶対に「お前はオリジナルを超えた、本物の人間になった」なんて言ってやりません。「愚かだな。所詮お前はレプリカか。己の身を憐れみながら、消えるがいい!」とか、軽蔑のまなざしで吐き捨ててやりたいです。アブソーブゲート決戦時から一ミリも成長してねーのかよ。むかむかむか。

 

 それはそうと、アッシュがナタリアとの約束が心の支えだったと回想していてハッピーでした。うんうん♥

 

 戦いが終わると、アッシュはローレライの剣をルークに渡して先に進むように命じます。その時、奥の扉が開いて大勢の神託の盾オラクル兵が入ってくる。アッシュに言われるまま、ルークは足止め役の彼を残して脱出します。

 原作ではゲームシステム上の制約で、ルークが自分の剣をアッシュに渡すことができず、アッシュが徒手で神託の盾オラクル兵に立ち向かって剣を奪い取るという無茶展開になっちゃいましたが、アニメ版では問題なく剣の交換が行われました。よかったね(笑)。

 

 脱出する際、ルークはアッシュに絶対生き残ると約束しろ、と言います。原作アッシュは「うるせぇっ! 約束してやるからとっとと行け!」と返し、ルークが立ち去ってから「ふん……俺には時間がないんだよ。俺は……もうすぐ消えちまうんだからな……」と呟く。

#アッシュはそう思い込んでいるのですが、実は彼の勘違いです。

 ところがアニメアッシュは、ルークに約束を迫られても無言です。そしてルークが立ち去ってから、心の中で(その約束は出来ねぇんだよ……)と呟く。何も約束しませんでした。

 

 物語のラストシーン、現れた《ルーク》らしき《彼》に、ティアが、どうしてここに帰って来たのかと尋ねると、《彼》は「約束してたからな」と答えます。これは勿論、レプリカルークが最後にティアや仲間たちと交わした約束を《彼》が知っている…ルークの記憶を持っているという意味で、レプリカの記憶がオリジナルに吸収されるという、大爆発ビック・バン現象が完了していることを示します。

 けれども原作プレイヤーの間には、この約束とは、絶対に生き残るというルークとのものではないかという解釈もありました。それでも筋は通るし、両方の意味をかけているなどと考えるのも面白いですよね。

 アニメ版のこの変更は、答えを決定化する意図なんでしょうか? 帰って来た《彼》が言う約束は、ティアと交わしたもの以外ではありえないんですよ、と。

 まあ、単に尺の都合で台詞をカット・簡略化した結果なだけかもしれませんが。

 

 それはそうと。原作でルークとアッシュが罠にはめられたのは、彼らが持っているローレライの鍵をヴァンが恐れていたからで。そもそも、ヴァンがエルドラント特攻なんて無茶をしたのも、ローレライの鍵を持つルークをどうしても始末したかったからだろうと説明されてましたし、リグレットも開口一番、ローレライの鍵を渡せとルークに要求してました。

 が。アニメ版ではそれらのエピソードが全てカットされています。ルークとアッシュが罠にはめられたのは、単純に、戦力を分断する目的だと語られていました。

 にもかかわらず、ルークが脱出した後の神託の盾オラクル兵の言動を原作ママにしてしまっているため、やや奇妙な状況が生じています。冒頭のギンジ発見エピソードと同じですね。

 原作では、あくまでローレライの鍵を奪い取ることが目的だったため、神託の盾兵たちは残っているアッシュに最初は襲いかからず、「そこをどけ!」と言う。鍵を持って脱出したルークの方が重要だからです。

 で。アニメ版はローレライの鍵の重要度が全然語られておらず、ただ戦力分断のため罠にはめられたはずなのに、神託の盾兵たちはやっぱりルークだけを追おうとして「そこをどけ!」とアッシュに言うのでした。ははは。

 

 その頃、仲間たちはどんどん先へ進んで、ホドの模造街までやってきていました。ルークとアッシュも無事なら追い付いてくる筈って理屈なのかな。…っつーか、ルークたちを探しに行っちゃうと、ルークと合流した時点でどうして近くで戦ってるアッシュを助けに行かないのか、無理が生じちゃうからですかね。原作は理論武装で押し通したせいで会話がくどかったですから。

 

 原作のホドの街(ガルディオス邸)は白亜のギリシア遺跡のようで、奥のホド神殿と一体って感じでしたが、アニメ版では通路は黒い石、建物の外壁は赤で、カラフルでした。

 ガイは、再生途中のガルディオス邸のレプリカに気づき、駆け寄ってあちこち見回す。

 が。話が原作とは異なる方向に持っていかれていました。

 

 原作では、感慨深げな様子のガイを見て、ルークが「……師匠せんせいと戦うの、嫌か?」と尋ねる。ガイは「違うよ。もう二度と、ここに戻れる日はないと思ってた。だから、不思議な気持ちなんだ」と返し、ティアは「そうね。私も……初めて自分の故郷に来たのよね……」と呟く。そんな二人の様子を見て、ナタリアは言います。

「私、フォミクリーという技術を嫌いになれませんわ。使い方次第で素晴らしいことが出来そうですもの」

 二度と戻れないはずだった場所、永遠に見られないはずだった故郷。過去の世界を、擬似的にであっても追体験することができたのですから。

 それを聞いて、ジェイドとルークは言うのです。

ジェイド「なんでもそうだと思いますよ。全ての道具は、素晴らしいことにも、くだらないことにも使える」
ルーク預言スコアだって同じだよな」

 そう。だからジェイドは、決戦が終わったらフォミクリーの研究を再開したいと考えてる。悲劇以外の何かを生み出せる技術に昇華するために。

 そして預言も。今の世界は預言に頼り過ぎて病んでいるため、ルークたちは全面禁止を敢行しましたが、預言そのものが悪いわけではない。かつてイオンがリグレットに向かって言っていたように、預言は生活を助ける道具で、どう使うかは各人にかかっている。始祖ユリアが惑星預言プラネットスコアを遺したのは、そこに詠まれた悲劇を回避してほしいと願ったからこそでした。

 ここにも原作特有の価値観の揺さぶり、視点の多角化が提示されています。

 フォミクリーは根絶すべき悪の技術なのか? 確かに多くの悲劇を生みましたが、ここにいる仲間たちは、フォミクリーで生み出されたルークやイオンによって結びつけられ、ルークが迷いながらも前へ進む姿を見て自分を変え救われた。それが世界全体の変革に繋がったのです。忌むべき結果だけを生んだ訳じゃない。

 でもアニメ版は全然違う方向なんだな。

(アニメ版)
#ガルディオス邸襲撃の日に隠れた暖炉のレプリカを覗き込んでいたガイ、あの日の自分と姉の姿を思い浮かべる。目を伏せて
ガイ「よく出来てるけど、やっぱり本物じゃない」
#立ち上がる。仲間たちに背を向けたまま
ガイ「器だけあっても、そこにいるべき人はもういないんだから」
#悲しげに耳を下げるミュウ
ミュウ「みゅう……」

「本物じゃない」と一刀両断。なんかレプリカそのものを否定された気がしちゃいますが、これがアニメ版の結論なんでしょうか。

 

 いや。「器だけあっても、そこにいるべき人はもういない」という言い回しは奇妙なので、最後に帰ってくる《彼》の見かけ(身体?)がルークでも、心がアッシュなら、やっぱりガイにとっての本物(親友のルーク)じゃない、みたいな暗示の意図なのかなぁ、とも思いましたが。

 

 ちなみに原作ガイは、そりゃ、エルドラントは本物じゃないとちゃんと認識してましたが、ここまで一刀両断せず、もう少し正直に、複雑な心境を語ってました。「本物じゃない」とは言わず、「俺の故郷」じゃないと言い回して。

(原作)
#エルドラントの外枠から、生成されていくレプリカホドの大地を見下ろして
ガイ「ホド……か。姉上のレプリカを見た時と同じだな。レプリカだってわかってても情が出ちまう」
ナタリア「それが人間の当たり前の感情ですわ」
ルーク「ガイ。大丈夫か?」
ガイ(明るく)……ああ、大丈夫だよ。俺は迷わないさ。俺の故郷は、もう俺の記憶の中にしかないんだ」

 存在は唯一無二。消えてしまえば二度と取り戻せない。消えてしまった存在は、記憶の中にしか存在しない。

 

 アニメ版の話に戻りましょう。

 ガイがレプリカ否定したところに、ルークが走ってきました。合流を喜び合いますが、アッシュが残ったと聞いてナタリアは不安に顔を曇らせる。仲間たちが先へ進み始めても、心配そうに元来た方を見つめていて、ルークに呼びかけられてやっと歩き出す。

 この辺の会話は、原作の該当シーンからエッセンスだけを採ったオリジナルです。くどかった会話がスッキリして、とても良かったです。

 

 場面切り替わり、大勢の神託の盾オラクル兵と戦い続けているアッシュ。

(アニメ版)
#無数の兵士の死体が転がる中、生き残っている四人の兵士に取り囲まれているアッシュ。
#肩で息をしながら右手で剣を構え、兵士たちを睨んで牽制している。

#脳裏に浮かぶ回想。
#障気中和前、スピノザの研究室を訪ねた時のこと。

スピノザ『お前さんの体に起きている異変は、止めることが出来ん』
アッシュ『何故こんなことになった。あれから、七年経っているんだぞ』
スピノザ『生体フォミクリーの技術は、まだ解明されていないところが多い。だが、記録によると、被験者オリジナルとレプリカの間で、超振動に似た音素フォニムの干渉が起きることがあるらしい』
アッシュ『それが起こったら、どうなる』
スピノザ『――大爆発ビッグ・バン音素フォニムが爆発、霧散し、残った方へ流れ込む』
#静かな表情で己の両手を見つめるアッシュ
アッシュ(俺が消える。ってことか……)
#回想終わり。

#荒い息を吐きながら兵たちを牽制していたアッシュ、ふと、胸に違和感を覚えたように左手で押さえる。
#その隙を逃さず斬りかかってくる兵士一人。
#アッシュ、冷静な表情と淀みない動きで兵士を刺殺。血がほとばしる。
←透過光処理
アッシュ(自分の居場所をレプリカに奪われて生きてきた。身体は消えかけている)
#死骸となった兵士を床に振り落とす。静かな表情で剣を構え
アッシュ(だが、今何故か気分はいい。俺にはまだ、遺せるものがある)
アッシュ「――うぅっ!?」
#突然、表情を歪めるアッシュ。苦鳴を上げながら左手で胸を押さえて苦悶し始める
アッシュ「こんな時に……っ」
#駆け込んでくる残り三人の兵士たち
アッシュ「!!」
#血がほとばしる。

#その頃、仲間たちと共に模造品の街を歩いていたルーク、全身を淡く金色に輝かせて立ち止まる

ルーク「!」
#仲間たちも立ち止まって、目を見開いて硬直しているルークを驚いて見る
ミュウ「みゅ?」
ティア「ルーク?」
#ルーク、ゆっくりと空を見上げて
ルーク「ローレライ……。(全身を覆っていた光が消える)――いや、アッシュ!」
ナタリア「!」
#不安に瞳を曇らせるナタリア。

#一方アッシュは、連続して剣を振るって三人の兵士を斬り伏せていた。
#しかしその体には三本の剣が突き立っている。
#よろよろと後ずさる。口元から流れ落ちる血

アッシュ(聞こえるか……レプリカ……!)
#硬直して空を見つめたまま、心の声を返すルーク
ルーク(アッシュ。大丈夫か!? 今、助けに)
アッシュ(馬鹿かお前。お前は、ヴァンと……)
#アッシュ、柱に背を預けてずるずると座り込む。
#柱にべったりとつく大量の血。床にも血だまりが広がっていく。
←彩度落としの処理
ルーク(アッシュ!!!)
#ルークの絶叫。アッシュは虚ろな目を開く
アッシュ「後は……頼む…………」
#息絶える。
#アッシュの全身が金色に輝き、不思議な光の帯が立ち昇るとルークを目指す。
#全身を光の帯に取り巻かれて驚くルーク。
#やがて光が消える

ナタリア「何が……何があったのです!」
ルーク「………」
#ルークは呆然としている
ルーク「アッシュが……。(俯いて)アッシュが死んだ……」

 原作よりも長く尺が取ってあり、アッシュの独白や回想が追加されていて、ドラマチックでした。

 ただ、アッシュが背後から兵士に刺されて、メリッと音を立てて剣が腹に突き抜けてくる描写はカット。流石にTVでアレは無理ですよね……。アッシュが己に刺さった剣の一本を抜き捨てる描写も無し。でも流血の量は原作よりずっとずっと凄かったデス。

 

 アニメアッシュは(今何故か気分はいい。俺にはまだ、遺せるものがある)と独白しますが、一体何を遺せると思ったんでしょうか。

 んんん…。音素フォニムが流れ込むなら自分の命はレプリカに引き継がれる……なんて今更自分とレプリカを同一視する訳はないので、無難に、(身代わり人形としてではなく目的を同じくする同志として)ルークにローレライの鍵を託し先に行かせた、ルークたちはきっとヴァンを倒し世界を救うだろう、結果として、平和な世界を俺は遺せる。とかそういうこと?? みなさんはどう感じましたか?

 

 さて。大爆発ビッグ・バン現象についてようやく語られました。しかし不完全です。

 正確に説明してしまうと残るのが被験者アッシュの方だとすぐに判ってしまうから、わざと曖昧な説明にして眩ませたんだろーなとは思うんですが……好きなやり方ではなかったです。

 妙な誤解を招く表現を選んでいる。それはいいとしても、アッシュが《勘違いしている》という重要な示唆を、最後まで全くしなかった。これは致命的です。

 いくら最後の《彼》の正体をぼかすのが原作ゲーム会社側の意向とは言え、原作の時点で、答えを導けるだけの設定とエピソードがきちんと語られているのに、それ自体を眩ます必要があるのでしょうか。

 原作では特殊な隠しエピソードでも何でもない、普通に出てくるサブイベント。攻略本でも設定自体は当たり前に説明されてあります。それを、こうまでして隠蔽する意味があるの?

 視聴者が完全な情報を得られたなら、推理して、残るのは被験者オリジナルの方だというシナリオ上の正解に辿り着けるでしょう。そして。それでもルークの帰還を信じる人は、理論を覆してルークが帰ったと思うでしょうし、記憶が混じったからには人格も変わる筈だと考える人は、《彼》はルークでもアッシュでもない第三の人物だと唱えるのでしょう。そもそも推理に興味のない人は、どんな情報があってもスルーして、主人公のルークが帰って来たと思うでしょう。現に、原作プレイヤーの間ではそうなっています。

 原作側が言わんとする、《好きなように解釈していい》とは、そういうことではないのですか?

 そこに辿り着く前の道しるべを消してしまっては、本当に《自分の答え》を探すことはできません。推理を楽しむ権利を視聴者に与えて欲しかった。推理するための材料そのものを(原作には存在しているのに)与えないなんて、横暴だと思うのです。

 

 …とは言え、今までの小説・ドラマCD等の先行商業二次が、大爆発ビッグ・バン設定の存在すら語らなかったのに比べれば、誠実に二次化してくださったと思います。ありがとうございました。無視されなかったのはとても嬉しかったです。

 

 アッシュがスピノザの話を聞く回想シーン。背景に、第21話に出てきた障気発生シミュレーション映像のモニターがありますので、障気中和直前の時期だと推測できます。

 つまり、第22話にレムの塔でレプリカたちに協力を要請した後、一時的に塔から去った時に話を聞きに行ったかと思われるのですが、よくよく考えれば第18話Bパート〜第19話開始前だと仮定することも不可能ではないですね。アニメジェイドは、イオンに会いに行く前から、アッシュがスピノザに話を聞きに来たことを知っていたことになってましたので。…まあ、前者でしょうが。

 

 ともあれ、アニメアッシュは第14話、偽姫事件でのバチカル脱出当時から、「もう……時間がねぇってのか」と苦しそうに言ってましたから、この頃もう、大爆発ビッグ・バン現象の概要を知っていたということになります。

 アニメスピノザは、第9話でアッシュたちが研究室に押し掛けた後、どこかに逃げてた(アッシュたちを忌避していた)っぽいですし、一体いつ、どのようにして、誰から最初に大爆発現象について聞き出したんでしょうね。

 

 それはさておき。第14話のアッシュは頭痛に苦しんでいる様子でしたが、第21話以降は胸を押さえて痛みに苦しんでいる。……あ、あれ? 痛いところが移動してる…?

 アニメアッシュの音素フォニム乖離は、進行と共に痛い場所が下りていくんでしょうか? だとすれば、神託の盾オラクル兵に刺殺されずそのまま症状が進んでいたら、次に痛くなったのはお腹。更に次に痛くなるのは股か………………………………………………なんでもありません。

 でもアレですね。もしもアッシュがお腹とか更にその下を押さえて「俺には時間がねぇんだよ」とか「もう間に合わねぇってのか」なんて苦悶の表情で言い出したら、ルークなら、「アッシュ、やっぱりここは俺が引き受ける。お前は一刻も早くトイレに向かってくれ!」とか言ってくれそうです。

 エルドラントにトイレあるのかな。あるよね。あんなにいっぱい兵士いたんだし。

 

(アニメ版)
#アッシュの死を知って泣き崩れるナタリア。ティア、アニス、ミュウが気遣う。
#ジェイド、険しい表情でルークに

ジェイド「今の光、音素フォニムですね?」
ルーク「そう……なのかな。(己の右の掌をじっと見つめて)何か温かいものが、体に流れ込んで……。アッシュの存在を感じた」←これは《ルークの日記》から採った言い回し。
ガイ「アッシュの?」
ジェイド「有り得ない話ではない。被験者オリジナルとレプリカの間には、何かしらの絆があるのですから」
#手を下ろしたルーク、へたり込んだまま すすり泣いているナタリアに目を移す。
#厳しい声をかけるジェイド

ジェイド「立ちなさい、ナタリア」
#驚くアニス、ティア、ミュウ
アニス「大佐!」
ジェイド「ここで座り込んで、世界が滅亡するのを、ただ黙って見ているつもりですか? ――それがアッシュの望みだとでも?」
ナタリア「!!」
#ハッと泣き顔を上げるナタリア。涙が一筋、こぼれ落ちる
#ルーク、ナタリアの前にしゃがむと、優しい声音で
ルーク「ナタリア。さっき、俺に流れ込んだ音素フォニムと一緒に、アッシュの心が流れ込んできた」
#ゆっくりとルークを見上げるナタリア
ナタリア「……」
#ルーク、自分の左胸を押さえて
ルーク「アッシュの心はここにいる。俺たちと一緒に戦うんだ。この世界を守るために」
#見守っている仲間たち
ナタリア「……そうですわね。(涙を指でぬぐい、表情を強くして)わたくしたちは負けません」
#ナタリア立ち上がり、ルークも立つと強い目線を上げる
ルーク「ああ。行こう! ヴァン師匠せんせいのもとへ!」

 

 アニメ版の大爆発ビッグ・バン現象の説明には、妙な情報操作がある気がします。スピノザに「音素フォニムが爆発、霧散し、残った方へ流れ込む」と説明させ、その後、刺殺されたアッシュから音素がルークに向かうと、原作の該当エピソードでは「何だか温かいものが全身に降ってきたような」と言っていたところを、《ルークの日記》の方の表現を採って「何か温かいものが、体に流れ込んで」と言わせている。

 意図的なのか、たまたまなのか。表現が揃っちゃってるので、アニメ版しか知らない人は、死んだアッシュからルークに音素フォニムが流れ込んだ今回の現象こそが大爆発ビッグ・バンなのだと、勘違いし易くなっていると思います。

 違うよー。ローレライ解放した後、地核の中で、アッシュの亡骸を抱いたルークが超新星スーパー・ノヴァのようにピカッと光って消えた、アレが大爆発ビッグ・バンなんですよぅ。

 今回、アッシュからルークに音素が流れたのは、大爆発が起こる前段階。レプリカの音素が爆発・霧散する前の一時的な状態です。

 

 それと。あんまり細かいことで「ウゼー」と思われること必至ですが(^_^;)、《生体フォミクリー》ではなく《生物フォミクリー》です。生体フォミクリーという表記は、私の知る限りでは、ファミ通攻略本の解説記事中の誤記です。原作ゲーム中では生物フォミクリーで統一されています。

 あと。単に説明を省略しただけなんでしょうが、大爆発ビッグ・バン現象は、《完全同位体の》被験者オリジナルとレプリカの間にのみ起こるとされる現象です。普通の被験者とレプリカの間には発生しません。ルークとアッシュの間に不思議な共鳴があるのは、オリジナルとレプリカの絆と言うよりは、完全同位体だから、と言う方が正確なのだと思います。だからこそローレライとも共鳴するのですから。

 

 原作では、アッシュが死んだと聞かされたナタリアが座り込んだ直後、床に譜陣の罠が現れます。逃げなければならないのに、悲しみで我を忘れたナタリアは動けない。ナタリアを置いて逃げられないと他の仲間たちも脱出を躊躇して、間に合わなくなってしまいます。

 絶体絶命の危機。ルークは思わず胸の内で叫ぶ。

(アッシュ! 力を貸してくれ!!)

 するとルークの中から不思議な力が湧き上がって、譜陣の罠そのものを消滅させてのけたのでした。

 ルークが使ったのは第二超振動。二つの超振動が干渉しあうことで発生する、あらゆる音素の働きを無効化するとされる未知の力です。

 ルークは、この力はきっとアッシュがくれたものだと思います。超振動を使えるのは自分とアッシュだけなのだから。それを聞いたナタリアは言う。

「そうですわね。あなたの中にアッシュがいる。アッシュがあなたを認めて、力を貸してくれたのですわね」

 ルークは、アッシュを足止め役にして脱出したことを後ろめたく感じていて、もっと責められても仕方がないと思っていたので、ナタリアがこう言ってくれたことを有り難く思います。「俺はアッシュに恥じない戦いをする」と改めて誓い、ヴァンの待つホド神殿へ向かう。そんな彼に、またナタリアは言うのでした。

「今あなたの中にはアッシュがいる。以前の私なら、あなたとアッシュを混同していたかもしれません。でも、あなたはあなたですものね。ですから、あなたはあなたの思うままに生きて下さい」

 

 対してアニメ版は、第二超振動の設定を完全削除。ルークの超振動系の力がパワーアップしたとは語らず、「音素と一緒に、アッシュの心が流れ込んできた」と、精神論的な話運びをしています。

 …アッシュの心が流れ込むって、それどういう状態?

 いえ。ナタリアを慰めるための方便なんでしょうけどさ……。アッシュの志を受け取ったとか、彼の魂と共に戦うとかなら分かるけど。心が流れ込む。少し奇妙な…いえ、不穏な言い回しです。

 アッシュの心が流れ込んできちゃったら。いつか、ルークはルークでなくなる?

 

(原作・フェイスチャット『アッシュの死』)
ルーク「……アッシュ……。おまえが死んじまうなんて……。ぜったい死にそうにないって、心のどこかで思ってたのに……」
ナタリア「……アッシュ……。せめてもう一度、あなたに逢いたかった……」
ガイ「……そうだな。俺たち、エルドラントではアッシュに会ってないからな……」
ジェイド「ルーク。辛い話を聞くことになりますが……アッシュはどのようにして亡くなったんですか」
ルーク「……神託の盾オラクル兵に囲まれて、剣を……体中に刺されて……」←《ルークの日記》によれば、アッシュの戦いの最期の瞬間が、アッシュの目を通して見えたのだそうです。
ナタリア「……アッシュ!!」
#耐えきれなくなったように席を外すナタリア
ジェイド「その後、あなたに何かが入ってくる感じはしませんでしたか?」
ルーク「……そういえば……。何だか温かいものが全身に降ってきたような気はしたけど……」
ジェイド「……何かが出ていく感じは?」
#傍らで話を聞いているガイ、怪訝な顔になる
ルーク「うん? アッシュが死んだ瞬間、虚脱感はあったけど、別に……」
ジェイド「そうですか……」
#硬い表情のままのジェイド
ガイ「ジェイド、今のは?」
#ジェイド、顔を伏せて眼鏡を押し上げつつ
ジェイド「……いえ……なんでも……なんでもありません……」

 原作のジェイドは、ルークに音素フォニムの流入があったことを確認すると、続けて質問しています。「何かが出ていく感じは?」。ルークは答える。出ていく感じはなかったと。

 完全同位体のオリジナルとレプリカが存在すると、両者の間にコンタミネーションが起こります。まずはオリジナル側がゆっくりと音素フォニム乖離を始め、体力や譜力が低下していき、ついには音素フォニム化して消滅してしまう。しかしこれは、オリジナル側がレプリカの情報を取り込むための前段階です。その後で大爆発ビッグ・バンが起こる。音素化したオリジナルはレプリカの情報を回収して自身を再構築。レプリカの方は、《記憶》という情報のみをオリジナルの中に残して消滅。オリジナルは、自分自身の記憶の他に、レプリカの記憶をも持つことになります。自我はオリジナルのままです。

 つまり、アッシュの音素がルークに流入したということは、大爆発がいよいよ間近に迫っていることを意味します。けれどジェイドは一縷の望みをかけて訊きました。出ていく感じはしなかったかと。

 アッシュは音素化する前に死んだ。もしも大爆発が不発になるならば、ルークに流入したアッシュの音素は離れるはずです。

 けれどルークは、出ていかなかったと答えました。

 今回ばかりは間違っていてほしかった自分の理論が完璧であると思い知らされたジェイドと、少し不審に思っているガイ。何も気づいてないルーク。結構重要な会話かと思うのですが、アニメ版では完全カットです。

 

 危機を脱した後、未だにへたり込んでいたナタリアを、原作ジェイドは平手打ちします。驚きと軽い怒りでやっと我を取り戻した彼女に向かい、ジェイドは淡々と告げる。

(原作)
ジェイド「あなたの行動は私たちと……そしてアッシュに迷惑をかけました」
ナタリア「……アッシュに?」
ジェイド「アッシュはルークに、ヴァンを討ち取らせようとした。本意でないにせよ。……あなたはそれを邪魔したことになる」
#息を呑み、俯くナタリア
ナタリア「――……ごめんなさい」
ジェイド「あなたがアッシュに好意を抱くのは自由です。ですが、やるべきことを忘れてはいけません」
ナタリア「……ええ。そうね。本当にごめんなさい。辛いのは、私だけではないものね。アニスも、ガイも、大切な人を失った。それに、ティアも……」
ジェイド「そういうことです」

 哀れな状態のナタリアを平手打ちするのは衝撃で、それ故に印象的でした。ここは好きです。けど、その後に続く説教台詞が苛烈でちょっとくどいので、少しモヤッとはする。そこまで言うことないでしょ、と。

 

 アニメ版は平手打ちを消し、説教台詞も完全変更しています。

「立ちなさい、ナタリア」「ここで座り込んで、世界が滅亡するのを、ただ黙って見ているつもりですか? ――それがアッシュの望みだとでも?」

 平手打ちがないのは残念ですけど、とても綺麗な、気持ちのいい台詞になっていると思います。

 二つを並べてみると、原作の方は平手打ちがあるのが、アニメの方は説教台詞の内容が好きだなぁと思いました。

 ついでに。アニメ版には、泣き崩れたナタリアの傍にティアとアニスがしゃがんで、そっと触れて慰める演出が追加されていて、それもとてもよかったです。友愛だねぇ。

 

 ナタリアが立ち上がり、「行こう! ヴァン師匠のもとへ!」とリーダーの貫録を見せて言ったルークを先頭に一行が歩きだした止め絵で、今回は終了でした。最後にヴァンの不気味な横顔がオーバーラップ。

 ヴァン師匠せんせいはどこまでも横顔を見せるのが好きですよねぇ。写真とかみんなその角度で映ってそうですよ。ぷぷ。思い返してみれば第7話ラストカットのヴァンのイメージも、今回のによく似た横顔でしたっけ。




今回の総論。

  • 原作を綺麗にまとめ直してあると思いました。三つの戦闘をまとめて、混戦をテンポよく描いていたのも良かったです♥
  • ただ、アッシュとの決戦という正念場に、ルークにレプリカ否定し自身を憐れむような台詞を言わせたのだけは、どうしても納得できません。

 

 では次回、最終回。

 



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