注意!

 

# 7 孤立

脚本:加藤陽一/コンテ:西森 章/演出:佐藤真人/作画監督:前澤弘美

 とても面白かったです!

 今回の作画は、ナタリアが顔だちも表情もキツかった……って、私いつの間にかナタリアが可愛いかどうかが作画チェックポイントになってますね。(^_^;)

 

 以下は重箱の隅ツッコミです。読みたい方だけどうぞ。





 アニメ誌に監督さんが寄せていたコメントを拝見するに、アニメ版ルークの言動をマイルドにしたのは、原作の断髪後ルークの変化が急激すぎて、別人になったと揶揄されることがままあるのを考慮した結果のようでした。以下引用。

本来のルークはいい人という大前提があって、ただ貴族の息子として社会を知らない、無知なだけということからくるわがままさなんです。アニメの場合はストーリーが全部つながっているので、成長物語という点で「わがまま」な「嫌な奴」だけだったりすると、後の物語が破綻してしまうんです。アニメでは性善説に基づいて僕らは芝居をつけてます。アニメ版のルークの性格は原作よりソフトになっているはずです。(『月刊Newtype』2008年12月号)

 ルークは元々《善人》だった。髪を切って突然変貌したのではない。それを示すために、最初から優しさが分かるように描いている、と。…しかしこのコメント、捻くれた見方をすると、原作は物語が破綻してたって意味になっちゃうよ―な(苦笑)。

 ところが今回のルークの言動は、原作から全くと言っていいほど手心が加えられていませんでした。物語進行上、流石にここはマイルドすべきではないと判断したのでしょうか。幾つかのフォロー的エピソードが削られた分、むしろ原作よりもキツくなっていたかもしれません。

 思い返すに、デオ峠のエピソードはドラマCD版が一番柔らかかったですね。ルークが《周囲に理解してもらえなくて吠え猛る哀れな子供》であることを強調し、ガイやティアはルークを心配しているのに噛み合わず伝わらない、という家族ドラマ的な脚色でした。ちなみに『マ王』漫画版はデオ峠のエピソード自体をカット。

 

 アバンは、砂漠を行く親善大使御一行様。原作のケセドニアでのルーク昏倒イベント、オアシスの村でのフェイスチャット、ザオ遺跡でのイベントとフェイスチャット、アッシュと遭遇した直後のフェイスチャットを混ぜた会話がなされておりました。オアシスの村へは行かず。現時点で、オアシスの村は第4話で譜石について説明した時のイメージカット一枚でしか登場してないですね。

ルーク「オラオラ、何してんだ!? おっせぇぞ」
#仲間たちを怒鳴りつつ先頭を行くルークと、その次を遅れて歩きながら辛そうにしているアニス
アニス「はぅあ……。このままじゃしおしおの涸れ涸れになっちゃいますよぅ……」
#空を飛びながらぐったりしているミュウ
ミュウ「みゅうぅ……。ご主人様、歩くのが早いですの」
ルーク「うるせぇブタザル。ヴァン師匠せんせいを待たせるにはいかねぇんだ」
#ルーク、ちらっと振り返ったものの、すぐに前を向いて歩を緩めない。軽く肩をすくめるジェイド
ジェイド「我々の目的は、ヴァン謡将を追うことではないんですがねぇ」
(中略。どうしてアッシュの声がルークに聞こえるのか、罠の可能性はないかと立ち止まって話し始めたティア、ガイ、ジェイドをルークが怒鳴りつけて黙らせ、けれどルーク自身もこの状況を気味悪がって苛立っている様子を描く。)
ルーク「とにかく! 早いとこザオ遺跡へ行っちまおうぜ!」
#ヒステリックに喚いて、ろくに仲間の様子も見ようとせず、独りだけ先へ行くルーク。黙って目を伏せるティア。アニスは幾分ムッとした様子になって呟く
アニス「……なんかやっつけって感じ」

 この会話中の「ヴァン師匠せんせいを待たせるにはいかねぇんだ」「我々の目的は、ヴァン謡将を追うことではないんですがねぇ」という部分の原型は、ザオ遺跡内でのフェイスチャット『アクゼリュスへ急ごう』だと思われますが、少しニュアンスが変わっています。

 原作では、イオンを探して遺跡を行くルークが「アクゼリュスは大丈夫かな?」と心配そうに呟き、「……救助活動が必要なぐらいですもの」とナタリアも同調。「今しばらくはつでしょう。救援物資は届いているはずです。まぁ、安全な所まで避難しないと根本の解決にはなりませんが」とジェイドがとりなして、ルークは気を引き締めたように「ちっと急ぐか。これ以上師匠せんせいを待たせるわけにはいかないからな」と言う。するとジェイドが幾分揶揄を込めて「私たちは、アクゼリュス救援のための使節団なのですよ?」と指摘。ルークが「……いちいち口出しするな。俺が親善大使なんだぞ」と例の調子になって、「これはこれは失礼しました。親善大使殿」とジェイドは笑い、ルークは「フン!」とそっぽを向く、と言う感じです。

 つまり原作の親善大使ルークには、ジェイドが見抜いたようにヴァンに会いたいのが最大の本音であっても、アクゼリュスのことも心配する気持ちが、一応はあった。それをジェイドはあえて汲み取りませんでした。結果としてルークを余計に苛立たせ、後の火種を煽り立てています。ガイ辺りだったら「そうだな。アクゼリュスの人たちのためにも、早くイオンを助け出そうぜ」なんて言って、ルークのやる気を強めてくれたでしょうに。

 

 これは親善大使期のルークへの同情や憐憫を誘い得るエピソードかと思うのですが、アニメでは前述のように変更しています。

 ケセドニアの昏倒エピソードの方も、ルークがアッシュに操られ頭痛に苦しんで倒れた部分は丸々カットでした。代わりに漆黒の翼がルークとアッシュを間違えるオリジナルエピソードが挿入されていましたので、尺が足りなくてやむなくというわけではなく、意図的に消したのだと思われます。

 前々回・前回分の感想にも書きましたが、アクゼリュス崩落はルークの傲慢によって引き起こされたと明瞭に認識できるように、原作にあった《でもでもだって、ルークは可哀想なんだ》と言えるような《逃げ道》を塞いであるのかなと思いました。ごちゃごちゃしていたルークの心理・動機をスッキリと整理してある。

 私はルークファンなので、ついつい「ルークにだって同情すべき点があったんですよ〜」と言いたくなってしまいますけど、物語のテーマを歪ませず視聴者に認識させるためには、多分これがベストの形の一つなんでしょうね。ここは視聴者をむやみにルークに同情させるべきじゃない、と。

 

 Aパート。ザオ遺跡に到着。

 遺跡内の最初のホール、砂が時々サーッと落ちるのまでは再現されてませんでしたね。ゲームの時点ではさして気にしてなかったんですが、アニメ見てて「あれ? 砂が落ちない」なんて思ったので、案外と刷り込まれてるものだなーと思いました。

 原作での「ミュウが火を吹くですの」「ずっと吹き続けるのか? 無理無理」というミュウとルークの会話を膨らませ、ミュウが灯りになろうと飛び回りながら火を吹き続けたので、アニスやガイは声をあげて避け、ルークがミュウをガシッと捕まえて怒る、というコミカルなエピソードを作っていました。みんな可愛い〜。特に、ルークに頭を掴まれてブランとぶら下がったミュウの愛らしさは格別でした。

 当然ながら、《ミュウアタック》関連のエピソードは全カット。すぐに封印の扉へ。

 

 第3話のシュレーの丘の封印の扉は、イオンが解咒を始めるまでは無色でしたが、ここのは最初から色が付いていて、解咒を始めると無色になってました。

 

 扉の前でイオンとアッシュが会話するオリジナルエピソードが入ります。

アッシュ「さあ、封咒を解け」
#イオン、落ち着いた態度でアッシュを見やって
イオン「何をするつもりですか。ここを開いても、何も起きませんよ」
#アッシュ、剣を抜いてイオンの首筋に押し当てる
アッシュ「……やれ」
イオン「……」
#イオン、法杖を地面に置いて封印の扉に両手をかざし、解咒する
アッシュ「それでいい」

 

 思ったのですが、アニメ版のアッシュはこの時点で何を考えて行動しているんでしょう。

 原作だと、

《カイツールでレプリカルークを殺そうとし、ヴァンに阻まれる》→(別行動をとったヴァンに、レプリカルークを利用して外殻大地の人間を消滅させる計画を聞かされる)→《アリエッタとディストに協力させて、ヴァンに無断でレプリカルークの同調フォンスロットを自分と繋がせる》→《イオンを誘拐して封咒を解かせろというヴァンの命令に従うが、内心ではヴァンの計画阻止を目論み、同調フォンスロットを利用してレプリカルークたちをザオ遺跡に呼んでイオンを奪還させる》→《ケセドニアでレプリカルークを強制的に操ってティアに剣を向けさせ嘲弄する。腹いせらしい》→《レプリカルークはアッシュの警告に猛反発。アクゼリュス崩落》

…って感じでしたよね。要はこの時点の原作アッシュは、本心ではイオンに解咒をさせたくなかったはず。シンクやラルゴと共にイオンの解咒に立ち会っているものの、彼自身がイオンに強制した様子は描かれていません。

 ところがアニメのアッシュは、自らイオンに剣を突き付けてまで解咒を強制し、見届けて「それでいい」と言っているのです。

 勿論、シンクやラルゴの目を誤魔化すためにそう振舞っただけ、もしくは封咒を解くことと外殻大地崩落の因果関係をまだ正確に把握していなかった、などと解釈することは可能なんですが、ヴァンの崩落計画を断固阻止しようとしていたはずの彼にしては、ちょっと不思議な感じだなと思いました。視聴者をミスリードするため?

 

 封咒が解かれたところでルークたちが現れ、シンクとラルゴが彼らに向かいます。大まかな流れは原作に沿っていますが、具体的な流れや台詞の大半はオリジナルになっています。

 ラルゴが生きていたことを、原作ではセントビナーで垣間見て知りますが、アニメではここで初めて知る。「ほう。黒獅子ラルゴ。まだ生きていましたか」「あの程度で死ぬほどやわではない。死霊使いネクロマンサージェイド」というジェイドとラルゴの好敵手らしい会話あり。「あの程度」って…いやいやいや。あれだけ貫通して血が噴出したら普通死ぬって。いきなり昏倒してたからショック状態になってたんじゃん。

 原作のルークはシンクとラルゴに阻まれて剣を抜き「なら力づくでも……」と言うだけですが、アニメでは「どけよ、おめぇら! こんなところで、時間食う訳にはいかねぇんだよ!」と苛々した様子で言わせており、相当に焦っていて、イオン奪還を《やっつけ》で終わらせたがっている狭量さを強調しています。今までは暴言をひたすらカットしてきたのが、ここに来て追加されるようになりました。

 

 アニメ版はルークの《人殺しの決意》をカットしていましたが、一応ここで一つの区切りをつけたようでした。ルークが《人間》であるラルゴに斬りかかり、ラルゴは「向かってこられるようにはなったか」と嗤う。

 しかしラルゴにもシンクにも血を流させませんでしたし、ルークが《人を殺してでも自分と仲間を守る責任を負う》決意をしたのかどうかは、やっぱり曖昧なままでした。「こいつは面白い。タルタロスでのへっぴり腰からどう成長したか、見せてもらおうか」と言われて「うるせぇ!」「馬鹿にすんじゃねぇ!」と余裕なく喚くばかりでしたし。対人戦への怯えは拭ったように消えていましたが、どうも決意してるようには見えないなぁ…。もしかして《人殺しの決意》は、髪を切ってからに先送ってまとめるんでしょうか? それとも、ドラマCD版のように決意表明させないまま進めるのかな。

 

 アニメの監督さんが、親善大使期のルークの心理状態についてアニメ誌でコメントしておられました。ルークは初めて人を殺して《気持ち悪い》と思ってしまい、今では、自分は女性メンバーより弱いと思っているほどのダメ状態なんだそうです。そのため親善大使の役職にしがみついて、自分は下々とは違うと思いこもうとして傲慢に振る舞っているけれど、実際には仲間にさえビビっている状態だそうな。(『アニメディア』'08年12月号)

 つまり、ここで躊躇なくラルゴに斬りかかっていったのは、怯えた犬が毛を逆立てて牙を剥いてるよ―なものだったんでしようか?

 

 一方、ガイはシンクに立ち向かう。コーラル城で短縮されたガイVS.シンクのリベンジが、ここに! おぉー!

 シンクの足刀や拳が、攻撃時や防御時に譜術効果らしい緑の電光をバチバチッとまとわせるのがカッコよかった! 譜術と体術の融合たるダアト式譜術の面目躍如ですね。くるくるっと横旋回して蹴撃してくるのが、ゲームの動きの再現って感じでニヤリ。シンクは体に紐飾りをつけているので、派手な回転の動きをすると映えるなぁ。ガイはちょっとシンクに押されてる感じですね。シンクはニヤニヤしてるけどガイは真剣な顔で剣を構え直す。今後、ガイも強くなっていくのかな。

 

 サッと剣を抜いて飛びかかって行ったルークとガイに遅れて、ようやく他のメンバーも動き出して混戦状態に。まずはジェイドが槍を出してラルゴに投げつけ、押されがちだったルークの援護をする。

「瞬迅槍!」

 エェー! ゲーム版OPのジェイドの槍投げにそっくりなコレが、アニメ版の瞬迅槍っすか! ラルゴが避けると地面に突き刺さり、音素フォニムの光を輝かせて爆発してました。

 ちなみに原作ゲームの瞬迅槍は、素早く踏み込んで槍を突き出し、敵を突きのける近接技です。天雷槍といい、原作では近接技の槍術を、アニメ版では今のところみんな遠隔技に改変してるんですが、見栄えとかの問題なんでしょうか。

 次にアニスがトクナガで襲いかかってラルゴをぶん殴りますが、ラルゴは地を滑ったものの踏みとどまって紅蓮旋衝嵐っぽい技を返してアニスを吹き飛ばす。可愛く尻餅をつくアニスがスパッツ履いてないように見え〜る。その様子を見た(スパッツのことじゃないです多分)イオンが顔色を変えて、あなたたちは何をするつもりなのですとアッシュに詰め寄る。アッシュは質問には答えずに「あいつらのところに返してやろう」と言う。

 

 シンクは縦横に飛び回り、ティアのノクターナルライト(ナイフ投げ)やナタリアの矢を軽々と避けます。一瞬で間合いを詰められたナタリアがシンクに殴られそうになった時、ガイが駆け付けて攻撃。苛立ったシンクはガイの右の二の腕にカースロットを打ちこむ。直接拳で打ち込むのではなく、禍々しい紫光線みたいなのを発してました。戦闘中にカースロットを打ちこまれるという展開は、ドラマCD版に似てますね。アニメ版では袖がビッと裂ける演出が追加されていて、劇的度が増していました。

 どうでもいいけど、シンクの声、ドスが効いてますね。原作のシンクは捻くれた少年という感じのややハスキーな声でしたが、アニメのシンクはもっと骨太な感じ。

 

 攻撃が掠っただけだと思って穢されたことに気付いていないガイを見つめて、厭な感じに嗤うシンク。そこにルークが飛びかかる。その強烈な一撃に倒れてしまうシンク。

 おーっ! ガイでも押されるばかりだったシンクを、不意を突いたからとはいえルークが倒しましたよ! つか、流れ的に、ルークがガイを守った! 本人も嬉しかったのか「よそ見してんじゃねぇ!」と、実にイイ笑顔で言い放っておりました。

 ちなみにその頃のラルゴはジェイドやティアと戦ってたらしいです。

 

 シンクが戦闘不能になったのを見て取ると、アッシュが「調子に乗るんじゃねぇ!」とルークに斬りかかってきました。ルークが得意げな表情を見せたのが逆鱗に触ったみたいです。少し前にイオンに「あいつらのところに返してやろう」と言ってた割に、感情的過ぎて行き当たりばったりのよーな。ルークたちがラルゴたちを打ち倒してイオン奪還するのを望んでたんじゃないの?(アッシュの予定としては、ここで自分の口から《取引》を持ち出して、イオンを返してやるつもりだったのでは。レプリカへの怒りでぶっ飛んで、自分で段取り潰してる気がする。)

 

 ルークとアッシュの戦闘。……これは原作の演出の方が好きでした。原作では、ルークとアッシュがしばらく斬り結んだ後で、動きの大きな技…ゲーム序盤のチュートリアルでヴァンに習った《双牙斬》を二人同時に放つ。動きが全く同じで、しかも鏡像のように左右対称になっています。視覚的にとても綺麗で、象徴的でもあり。アッシュの《技》を見たルークは狼狽して「今の……今のはヴァン師匠せんせいの技だ! どうしてそれをお前が使えるんだ!」と叫ぶのです。しかしアニメ版ではひたすらに斬り結んでいただけで大技を使いませんでした。動きのタイミングは揃っていましたがアニメでは珍しくないですし、声が揃ってエコーがかっていたのが少し変わっていたくらいで、《シンクロ》が分かりにくかったです。そして《技》を使ったように見えないのに、ルークが「今のはヴァン師匠せんせいの技だ!」と言う。どうもシックリこない、んですけど…。

 原作になかった演出として、ルークとアッシュが剣を合わせる度に微弱な超振動が起こるようになっていました。それにより、ついには遺跡が崩れそうになって戦いが水入りになる…という流れ。原作レプリカ編の障気中和前のダアト教会でルークとアッシュが斬り結ぶイベントの前倒し? 『マ王』漫画版でルークが遺跡を破壊して戦いを水入りにする展開を微妙に取り入れ?

 と言うか、この戦闘で大佐やアニスやティアが効果の大きな譜術を使ってないのは、ここが生き埋めの危険のある地底だったからなのかなぁ、と今更のように思いました。

 

 遺跡の石積みが崩れ始め、シンクの指示で六神将は撤退。ルークたちをその場に残して駆け去る。原作とは反対です。

 原作のシンクは取引と称してイオンをルークたちに返し、出て行け絶対に戻ってくるな、戻ってきたら遺跡を破壊して全員生き埋めにしてやると脅してラルゴ、アッシュと共にその場に残る。ルークたちが去った後で封咒の開いたセフィロトの内部に入って何か調査したらしく思われるのですが、アニメ版ではその辺は消滅させてました。

 

 崩れてきた岩に押し潰されそうになったナタリアを、ティアが身を挺して救う。ティアは他人を庇う行動を頻繁に取りますね。偉いなぁ。前回、廃工場でアヴァドンが出て来た時のシチュエーションの繰り返しにもなってます。それを思えば、今回はアニスにトクナガで救わせてもよかったかも。

 崩れる遺跡の中を大鎌担いでえっほえっほと逃走しながら、ティアが「大丈夫? ナタリア」と呼びかけた声に敏感に反応するラルゴ。耳いいな。やっぱりスタタタタと逃走しながら、「てめぇ、ナタリアと何か関係があるのか?」とすかさず食いついてるアッシュ。なんとなく愉快。

 ちなみに『マ王』漫画版では戦闘中にルークが「ティア!! ナタリアを頼む!!」と託した声を聞いて。原作では戦闘終了後にガイが「でもナタリア、こらえてくれよ」と話しかけた声を聞いて、ラルゴは「ナタリア……?」と反応してました。ドラマCD版ではこのエピソードそのものが消滅。

 

 ガイが、シンクとイオンがそっくりであると再認識し、シンクがそれに気づかれたことを苦々しく思うという伏線はカット。シンクがケセドニアでカースロット発動させた動機が、原作から少し変わりましたね。

 

 イオンを伴って遺跡から脱出。さあ、いよいよ親善大使ルーク様伝説の本格的な始まりっす。まずは、「皆さん。ご迷惑をおかけしました」と丁寧に謝罪したイオンに「全くだ! ヴァン師匠せんせいが待ちくたびれてるぜ」と傲岸に言い放つ。カッとしたアニスをガイが宥めます。

 ここ、原作だとアニスが「そうですよ、イオン様! ホント大変だったんですから!」と、少しルークの暴言に似た感じにも思える台詞を言ってるんですが、カットしていました。ルークの傲慢を際立たせるために無駄な枝葉を落としたんですね。

 セフィロトとダアト式封咒の説明。原作セントビナー宿での説明をカットしているため、セフィロトの説明がとても簡素なんですが、崩落編に入ってパッセージリング巡りを始めたら、おさらいするのかな。

 セフィロトの詳細は機密事項です、というイオンの言葉にふてくされたように鼻を鳴らし、「どうでもいいけどよ。さっさと行こうぜ」と不遜に言い放ってさっさと歩きだすルーク。アニスは再びムッとし、ここでカメラがガイに寄って、彼がじっとルークを見つめる様子を映していました。これ、どういう意図なんでしょう? 苛立って自ら敵を作っているルークを悲しみ心配した? それともカースロットの影響もあってガイ自身もルークに苛立ち、憎しみを感じたってことなんでしょうか。…その両方とか。

 

 ケセドニアに到着。アニメ版では初訪問のはずですが、物語の流れ上、ルークやミュウが物珍しげにキョロキョロする可愛い描写や、どういう都市なのかの説明なんかは無し。にしても、街の雰囲気がなんか違う…と思ったら、BGMが違うせいでした。思えば、ゲーム版のケセドニアのテーマ曲は、猥雑感のある異国情緒が出ていてイイ感じでしたね。

 原作ではここでルークが頭痛を起こして皆が心配し、イオンの今後も相談したいし宿に入ろうということになる…宿の前でルークはアッシュに身体を操られたうえ昏倒してしまう…のですが、それはカット。

 ルーク昏倒エピソードでは、彼が精神的にも肉体的にもダメージを受けているのに、ジェイドは(真相を知っていながら隠して)容赦ない嫌味でルークの苛立ちを煽り立て、アニスは「健康に難ありかぁ。介護するぐらいなら、ぽっくり逝きそうなお金持ちの爺さんの方が……」なんて、こそこそ呟く。

 ジェイドが嫌味を言うのは、ルークが役職に見合った能力を発揮できていないのに威張るだけは人一倍にしたからですし、アニスはこの時ルークのイオンへの暴言に腹を立てていたからで、それにルークに面と向かって言ったわけでもない。それでも殺伐とした状況なのは確かで、(ルークの傲慢な言動に端を発して)パーティ内の軋轢が洒落にならないレベルに至ってしまったことが見て取れます。

 ですが一方で、このエピソードはプレイヤーのルークに対する同情や憐憫を、幾分掻き立てるものだったように思います。アッシュにいいように嘲弄されて抵抗の術を持たず、しまいに原因不明の持病で昏倒したというのは大きい。

 そのエピソードをアニメ版は消滅させました。前述したように、視聴者が変に《ルーク可哀想》と思わないように整理したのではないかと思いました。ここは《ルークが悪い》んでないと物語が正しく進まないから、とか。

 

 ともあれ、頭痛の代わりに、ルークがイオンに暴言を吐くエピソードが追加されていました。デオ峠半ばでの会話のアレンジにルーク昏倒イベントの後半(ルークが目覚めてから)を混ぜて再構成しています。一方でデオ峠半ばでの会話の方は、峠でも原作そのままで再現していまして、つまり同じ回の中で殆ど同じ会話が二度繰り返されることになっています。ルークの非道ぶりを強調する脚色を選んでいるようです。

(原作/アニメ版・デオ峠半ば)
#ガクリと膝をつき、はあはあと荒い息を吐いているイオン。アニスが慌てて駆け寄る
アニス「イオン様!」
#ティアも傍らに膝をついて心配そうに覗き込む
ティア「大丈夫ですか? 少し休みましょうか?」
イオン「いえ……僕は大丈夫です」
アニス「駄目ですよぅ! みんなぁ、ちょっと休憩!」
ルーク「休むぅ? 何言ってんだよ! 師匠せんせいが先に行ってんだぞ!」
ナタリア「ルーク! よろしいではありませんか!」
ガイ「そうだぜ。キツイ山道だし、仕方ないだろう?」
ルーク「親善大使は俺なんだぞ! 俺が行くって言えば行くんだよ!」
#驚き呆れる仲間たち。白けた空気が流れる
アニス「ア……アンタねぇ!」
#ジェイド、飄々と笑って
ジェイド「では、少し休みましょう。イオン様、よろしいですね?」
ルーク「おい!」
イオン「ルーク、すみません。僕のせいで……」
ルーク「分かったよ。……少しだけだぞ」

(アニメ版・ケセドニア)
#並んで歩きながら心配そうにイオンの顔色を見ているアニス
アニス「イオン様、どこかで休まれた方がいいですよね」
ルーク「休み!? そんな時間ねーよ」
#キッとルークを睨むアニス。ティアが足を速めてルークに並んで叱責する
ティア「あなたねぇ!」←デオ峠ではアニスの台詞
ルーク「なんだよ。親善大使は俺だ。俺が行くって言ったら行くんだ」
#ムッとしているアニスに微笑むイオン
イオン「僕は休まなくても大丈夫です」
アニス「イオン様…」
#ガイ、場を和ませるように、にこやかな顔で
ガイ「で? イオンはこれからどうするんだ?」←原作では昏倒イベントでのルークの台詞でした
イオン「もしご迷惑でなければ、僕も連れて行ってもらえませんか?」
アニス「えーっ! モース様が怒りますよぅ!」
イオン「僕はピオニー陛下から親書を託されました。ですからアクゼリュスの状況も、陛下にお伝えしたいのです」
アニス「でもぉ……」
#困惑している様子のアニス。笑って優しく言うジェイド
ジェイド「まあ、よろしいのではないですか。アクゼリュスでの救援活動が終わりましたら、私と首都へ向かいましょう」
イオン「ありがとうございます」
ジェイド「おっと。決めるのはルークでしたね」
ルーク「お前な……」
#ジェイドを忌々しげに睨むルーク。ジェイドはふざけた口調で続ける
ジェイド「親善大使のルーク様がお決めになっては?」←アニメ版追加台詞。ギスギス感増量
ルーク「……勝手にしろ!」
#吐き捨てて、一人で先へ歩き出すルーク
ルーク「ったく。嫌味な奴だ!」

 

 腹を立てて一人でズンズン歩いていたルークに、漆黒の翼の三人組が親しげに声をかけてきます。噛み合わない会話にしげしげと顔を覗きこんだノワールが、アッシュではないと気付き、煙玉を爆発させて即座に逃走。まさに煙に巻かれたルークでした。この煙玉は、原作ゲームの逃走アイテム《マジックミスト》なのかなぁ。これにてドロン。

 

 カイツールへ向かうべく、港へ。マルクト領事館は省略でした。連絡船の乗船タラップの途中でカースロットが発動し、しんがりを歩いていたガイが突然呻いて、痛そうに右腕を押さえてガクッとうずくまる。

 カースロット打ち込み・カースロット発動を同じ回にまとめてあるのは親切。

 ルークは例によって先頭を歩いていたんですが、「ガイ!?」と呼んで、ただ一人、パッと彼の傍に駆け降りていました。イオンに対しては冷たいですが、《お兄ちゃん》を気遣う優しさはまだ忘れていないようです。ところがカースロットにかかったガイの右手は、伸ばされたルークの手を払いのけ、更に突き飛ばす。

ジェイド「どうしたのです? ガイ」
ガイ「わ、分からない…! 腕が勝手に…!」

 この会話はアニメオリジナル。

 カースロットは、被術者の脳に刻まれた負の記憶を掘り起こし、理性を麻痺させることで暴走する方向へ操作する術。これが前提ですが、多くの商業・同人二次創作を見ていると、具体的な解釈は人によって様々で、大きく二系統に分けられるような気がします。

  1. カースロットが発動している間は《増幅された憎悪で理性がぶっとんでいる》状態で、結局は本人の意識で暴走している
  2. 暴走中の自分と普段の自分の意識が乖離。本人の意思とは無関係に体が勝手に動き、まさに《操られる》感じで暴走

 アニメ版はB解釈なんですね。ガイの意思とは無関係に、勝手に手が動いてルークを突き飛ばした、と。私はA解釈派なので、ちょっと残念でした。

 と言うか、ここはSD文庫小説版のアレンジに似てるかも。そちらでは、ザオ遺跡を出たところでルークがアッシュに操られ、ぐったりしたルークの様子を看ようと伸ばしたガイの手が、何故か彼の意思とは無関係にルークの首を締め始めたので、ガイは「違うんだ! くそっ!」と叫んで、もう一方の手でルークを締める自分の腕を殴り、ルークを解放する、という流れでした。

 

 Bパートはデオ峠を進む一行の姿から。

 ムツッとしているルークを気遣って、ガイが「おいルーク。そう苛々するな。ヴァン謡将だってアクゼリュスでお前を待ってるさ」と優しく声をかける。でもルークはツンとして「砂漠で寄り道なんかしなけりゃよかったんだ」と言い放ち、流石のガイもぎょっとして、アニスは激昂。

 この後の会話は原作と全く同じです。アニスに「あんた……バカ……?」と言われた時のルークの顔が可愛かった。(こんなシーンでそんな感想かい。)

 ジェイドが「なるほどなるほど。皆さん若いですねー。じゃ、そろそろ行きましょうか」と言って場を収めた後のガイの台詞、原作では「この状況でよくあーいう台詞が出るよな。食えないおっさんだぜ」で、呆気にとられつつ苦笑していた感じでしたが、アニメ版では「ははっ。この状況でよくあーいう台詞が出るよな」で、朗らかに笑っておりました。ちょっとニュアンス違う。

 そして(しかしルークお坊ちゃんよ。今のはかなりマズかったな……)とガイが内心で呟くシーン。原作ではガイは横顔しか見えない。しかも表情が硬質なポリゴンキャラ。ですから原作プレイヤーの間では、ガイが比較的冷めた気持ちでそう思ったという解釈も結構あった気がするんですが、アニメ版ではガイの顔を正面からアップで映していて、困ったような心配そうな微妙な表情が描写されていました。ガイはルークのことずっと心配してくれてたんだねー。ホントに保護者の顔。

 そして(……まったく。ルーク様って、ホントバカぁ?)と怒り続けるアニスをからかい口調で混ぜ返す役、原作ではジェイドなんですが、ガイになってました。と言って、原作ザオ遺跡出口みたいに「ルークはルークで色々事情があるのさ」と取りなす訳でもなかったですが。どういう意図の役交代なのかな?

 にしても、ガイのニコヤカぶりと対照的なまでに、今回はずーっとナタリアがキツい顔してるなぁ。アッシュのことも、ルークの好ましくない言動も、彼の亡命のことも、勿論アクゼリュスのことも気になってるんでしょうけど。ティアに助けられた時くらいしか表情を和らげてません。そして口数が少ない。

 前回に引き続き、原作フェイスチャットの閑話休題的な会話が入っていました。尺に余裕が出てきた? デオ峠の旧道の整備に関する話題…キムラスカ人のナタリアとマルクト人のジェイドの腹の探り合い・睨みあい…だったので、これを選ぶのか〜と、少し意外な感じがしました。「なんだよ。お前、もうモースの奴をかばわねーの?」とか「何を仰いますの? 救助活動に治癒術師ヒーラーであるとか大使であるとか関係ありませんでしょう?」とかはカットしたのに。

 ここ、ナタリアとジェイドが会話している後ろで、動かさなくても支障のないガイに辺りを見回すアニメーションを付加していて、手が込んでるなーと思いました。愛ですね。

 

 しばらく進むとイオンが疲労から倒れる。ここの会話は前述した通りで、キャラクターの演技も原作そのままでした。

 原作では休憩の様子も描かれていて、仲間たちから一人離れて苛々立っているルークにティアが近付いて「何を焦っているのか知らないけど、そういう態度はやめた方がいいわ」と忠告したけれどルークは聞く耳持たず。ティアは怒って再び離れる…というエピソードがありますが、それはカット。遠景で、ルークが仲間たちに背を向けてやや離れて立っていて、ティアが彼に背を向けている様子がチラッと見えるだけでした。すぐにリグレットが現れて、崖の上からルークの足元に銃弾を撃ち込んでくる。リグレット登場シーンはセオリー演出でカッコ良く、それが気持ちいい。

 リグレットに何故そんな奴らといつまでも行動を共にしていると詰られティアが返した台詞「モース様のご命令です」をカット。

 ここで、ティアとリグレットの過去の回想シーンが入ってました。十四歳ティアの私服は『テイルズ オブ ファンダム Vol.2』のデザイン。しかし神託の盾オラクル騎士団士官候補生の制服は、ちゃんとゲーム本編デザインでした。(『ファンダム Vol.2』では、何故かゲーム本編と異なるデザインになっていた。)よかった。

 ゲームでは戦闘になりますが、それは無し。でもシナリオ的にはその方が正しい感じ。

 

 ジェイドの激昂。この辺は彼の演技が原作と違ってました。原作では「……そうか。やはりお前たちか! 禁忌の技術を復活させたのは!」と、仲間たちの前にダッと駆け出して叫ぶ。しかしアニメ版ではティアやルークの後方にじっと立ったままでした。それから、リグレットが逃走して「……くっ。冗談ではないっ!」と激昂して吠えた後、槍を手の中に消して「――失礼、取り乱しました。もう……大丈夫です。アクゼリュスへ急ぎましょう」と感情を抑えるシーン。原作では本当に、無理やり感情を呑み込んで平静を装った、でも装いきれてないという声音なんですが。アニメ版ではアニスに声をかけられるとハッとしてすぐにフッと笑い、前髪をサラッと撫でつけ、コインをひっくり返したみたいに一瞬で飄然とした顔に戻った、という感じでした。《間》がなく、変わり身が早すぎて、ギャグっぽく感じられてしまうかも。私は変わり身に取り残されて「へぁ?」と戸惑いました。

 ギャグっぽいと言えば、リグレットに「さいは投げられたのだ。死霊使いネクロマンサージェイド!」と言われた後のジェイドの動作。原作の時点で、手から槍を出そうとしながら数歩前に出る動きをするんですけど。アニメ版では(前に駆け出していなかった分)《歩き》がやや長かったせいで、深刻な会話してたと思ったら急にジェイドがトコトコトコと歩き出した感じに見えて、妙に笑いを誘われてしまったのでした。《間》って大切なんだなぁ…。

 

 不安と苛立ちから混乱して喚くルークを放置してさっさと進み出す仲間たち。原作の時も思いましたけど、この時はみんな、何を考えていたんでしょうね。特にガイとナタリア。あまりに荒れ狂っているから落ち着くまでしばらく放っておいた方がいいと思ってたのかなぁ。それともジェイドやイオンのただならぬ様子に呑まれていたのかな。ガイは、ヴァンの目的について考え込んでたりして。いやいや単純に、よく解らないことが起きたからって喚き続けるルークにいい加減うんざりしてたのかな。ガイやナタリアにだって何の話なんだか解らなかったんですし。(原作ガイは、ルークがレプリカではないかと漠然と疑ってたっぽいですが。…だとしたら尚更、ルークに何も説明できないか。)

ルーク「なんなんだよ。訳わかんねーことばっかり話しやがって! 待てよ! ふざけんな! どいつもこいつも、俺を馬鹿にして! ないがしろにして! 俺は親善大使なんだぞ!」
#仲間たちの最後尾にいたティア、立ち止まって振り返る
ティア「いい加減にしなさい! いつまでも子供みたいに」
ルーク「……師匠せんせいは。師匠はそんな風に俺を馬鹿にしなかった! 分からないことは教えてくれた! 師匠はいつも俺に優しかった!」
ティア「……なら、あなたは兄がいなければ何も出来ない、お人形さんなのね」
ルーク「なんだと!?」
ティア「もういいわ。ただ、一つ忠告しておくけれど、あなた、少しは自分で物を考えないと、今に取り返しのつかないことになるわよ」
#ティア、先へ進んでいく
ルーク「くっそぅ……」
ミュウ「みゅう。怒らないでくださいですの……」
ルーク「なら俺に話しかけんじゃねぇ! おめぇらうぜーんだよ」
#ミュウを放置して仲間たちの後を歩き出すルーク。ミュウが追っていく
ミュウ「ご主人様ぁ!」
ルーク師匠せんせいだけだ……。俺のこと分かってくれるのは、師匠だけだ……!)

 無視するなと喚きながら、ティアやミュウが話しかけても「俺に話しかけんじゃねぇ! おめぇらうぜーんだよ!」と撥ねつける。この時のルークは取りつく島がありませんね。

 ラストカットは、バックに横顔のヴァンのイメージを配置した、アクゼリュスへ向かうルークの止め絵カット。解ってくれるのは師匠だけ…というルークの独白が入っていますが、ヴァンのイメージは顔に濃く影が落ちていて、ど―見ても善玉キャラではありません(笑)。視聴者に不安を与えつつ、今回はここで終了です。

 

今回の総論。

  • とっとこジェイド。前髪シャランラ〜☆

 

 それではまた次回。

 



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